圧倒的に走ってく

基本的には行ってきたライブのこと。たまにCDと本と諸々の話。

防護服ライブに行ってきた

選択@1000CLUB。

防護服ライブということで注目されたこのライブは、見事に語彙力をぶっ飛ばしていきました。



ギリギリになるまで行くか結構悩んでいたこのライブ。
実際、CD先行で外れたら配信で見るつもりだった。
運試しのつもりで一枚だけ応募してみた。
……当たってしまった。
こうなると行かない理由がなくなってしまったので、心を決めた。
それも選択だ。

朝は大雨だったが、開場少し前には曇りになっていた。
あつらえたような天候だな、と思いながら入場すると、鈴虫の声が聞こえた。
驚きつつも席を探す。どうやら最前が一列ない構成らしい。
捜し当てた席の上には防護服が乗っていた。
サインとメッセージ入り。ハートの絵付き。
当初はこれを全員が着る予定だったのか…熱中症の危険を考えなければ結構楽しそうだったな、と思いつつ、傍らに置く。

ステージ上には木枠が四つ。木枠の前には楽器とマイク。
サポートメンバーは三人だから、楽器から逆算すると……

……ん?

開演時間。
四人が所定の位置へ。

結果:個人的にとんでもない良位置だった

今年の運結構使っちゃってるような気もするが、今年は運を使う所が少なかったからだと前向きに捉えておく。

湯木さんのライブに行くのは実はまだ三回目。
去年の始まりの心実は抽選落ち、繋がりの心実は諸事情で行けなかったので、ワンマンは初見となる。
とはいえ廃盤以外のCDは網羅しているし、対バンで二度聴いているからなんとなく予想もできている部分があった。
固唾を呑んで、第一声。

まるっきり裏切られた。

コーラスとパーカッションの圧倒的さ。
『Answer』だ、と気付くのに少し時間が掛かった。
髪の毛のせいか湯木さんは目隠しをしているようになっていて、歌詞が余計に強調される。

どの公演でも変わりなく本領発揮するアーティストもいるが、
湯木さんはワンマン極振りのアーティストと言っても過言ではないかもしれない。
それほど違う。

ワンマンで真価を発揮するアーティスト。
自由にできるからか。それともまた別の理由か。
とにかく、まるっきり違う。

これはヤバいな、と思っていると次の『網状脈』で更に叩きつけられる。
『張り巡らされた大動脈 動き続けては22年』の重みよ。

会場が少し暗くなり、コーラスの楠美月さんの声が更に大きく響く。
『極彩』――目の前を色が散るような感覚。これは……ヤバい。
さっきから語彙力が迷子だ。ヤバいしか言っていない。

ここで、MC。
全ての予定が駄目になって、途方に暮れていたところに社長が持って来た防護服ライブの誘い。
防護服でライブ。それなら、できるかもしれない……と承諾した。

しかし、防護服ライブというセンシティブな案件に、この時世にライブをやることに、相当数の批判が飛んできた。
心が折れそうになるぐらいの批判が。

その話は知っていた。
『防護服 ライブ』で検索すると、批判の片鱗を今でも見ることができる。
医療関係に疎い私でさえ、「熱中症は大丈夫か…?」と思ったぐらいなのだから、医療関係者から苦言を呈されるのは分からないことでは無い。
しかし、圧倒的に多かったのは、中身も見ずに『防護服ライブ』という言葉だけで不謹慎だと叩いている呟き。
確かにこれは…と思わざるを得ない。

もちろん、湯木さんサイドでも批判が出ることは分かっていたという。
しかし、それにしたって。
叩ける対象を見つけたら、少しでも、ほころびが出来たら、そこから、サンドバッグのようにされてしまう世の中。
それは、なにか違うんじゃないのか。

そんなMCからの、『存在証明』。
噛み締めるような湯木さんの歌声、コーラス、パーカッション、キーボード。
四人の相乗効果。
何を言ってもチープになりそうな感情が押し寄せる。
ボロボロになった。まだ四曲目……と考えるだけで怖くなる。

ここでバンドメンバーが一旦はけていく。
一人での弾き語り。
の前にまたMC。

このライブ、"選択"のきっかけが語られる。
社長がいなければ、まだ、ライブをやる、という"選択"はできなかった。
結局"選択"するかどうかはその人次第で、"選択"には、良い面と悪い面がどちらもついてくる。

防護服ライブをしようと思って、でも、大きな批判によって、防護服を着ることが駄目になって。
それも"選択"をした結果。
そこで必要だと思ったのが、「心の防護服」。
私にとっての心の防護服は、「音楽」だと。

その言葉からの次の曲は、『一匹狼』。
音楽を、「ひかり」と読ませるあの曲……!
この上ない選曲だ。
MCで伏線を貼って、曲で回収していく。ゾクゾクする。

その次は、の前にまた少しだけMC。

いつも着席にしているから、いつもそんなに声援を上げるタイプではないことも知っている。
でも、今日は特に客席が静かだと。
このご時世、つってもちょっと寂しいと。

確かに、会場はかなり静かだった。
でもそれは、湯木さんの歌声に入り込んでいるからであって、決してしらけている訳ではない。
でも確かに静かだった。
それまでは。

次の曲、『ハートレス』。
メッセージ性の高い曲で、じわりと涙が溢れそうになる。
聴き入った後、会場の空気は一変する。

弾き語りパートの次は、サポートメンバーを呼び直すことに。
しかしただ呼ぶのでは面白くないから、一人一人紹介しながら、一人一人とコラボしていこうと。
一瞬湯木さんの言っている意味が分からなくて、会場には疑問符。

まず呼び込まれたのはドラムのヒロシさん。
チューニングをするからと、ヒロシさんにMCを丸投げする湯木さん。
これは相当の信頼関係が築けていないとできないことだな…と会場は温かい眼になっていく。
「――ということでわt「はいチューニング終わった!」
……いや、信頼関係がないとできないな、確かに。

静かだった会場は笑いに包まれて(といっても時世が時世なので軽い笑いではあったが)、コラボレーションが始まる。
始まったのは『ヒガンバナ』。
原曲はギターの強い曲だが、今回のアレンジは凄い。
本気だ。
本気でバトルしている。
僻み、をテーマにしていると思われるこの曲で、このバチバチ感。
圧倒されてる内に終わってしまう。

続いて呼び込まれたのはコーラスの美月さん。
コーラスをずっと探していたという湯木さんが、今年やっと見つけた歌声の人だと。
6月から本格的にサポートメンバー入りし、配信で驚いたのは記憶に新しい。
快活な喋り方が聞き取りやすくて、MCもしっかりしている。
チューニングが終わったと強制終了させることもない。……あれはあれで良い空気感だけども。

曲は、コーラスが沢山盛り込まれた『金魚』。
もともとおどろおどろしい曲調ではあるが、美月さんのコーラスが入ると不気味さと厳かさがプラスされて、また圧倒される。
湯木さんとの声の相性が半端ない。やっと見つけたという理由が分かる。

美月さんが帰っていくと、残りは……一人しかいない。
キーボードの変態アニキ……いや、キーボードのイケてるアニキ、ベントラーカオル。
初めて見た時、服装と名前のおかげで性別が分からなかった方だ。
今回はカオルさんのキーボード一本で歌う……とのことで、チューニングは無しにすぐに始まる。
カオルさんのMCもちょっと聞いてみたかった気がする。

曲は、『バースデイ』。
この曲が湯木さんの弾き語りじゃないのは初めて見る。
手振りと声の伸びがグッとくる。
この角度だとカオルさんの手元が見れないのは惜しい。

全員の紹介が終わって、ここからはバンドセット……かと思いきや、換気タイム。
長丁場なら仕方がない…仕方が……

「換気なんでね、小さい声で」

……はい?

小さな声(といいつつ結構大きめな声)で歌い出す湯木さん……と美月さん。
美月さんメインボーカルで『Answer』と『一匹狼』。
それは反則……これじゃ換気タイムじゃなくて歓喜タイム……!
メインボーカルが変わるだけで、これだけ違う色を見せるのか。
予想外過ぎてただ拍手するしか出来なかった。一観客のできることはあまりにも少ない。
換気タイムまで魅せる人は中々いない。

換気が終わり、今度こそバンドセット。
再びの四人体制一曲目は……『万華鏡』。
イントロの雰囲気が違い過ぎて、一瞬どの曲か分からなかった。
個人的な推し曲として紹介したこともあるのに。
『なんでなんでを繰り返して夜の街に飛び込むんだ今』
『万華鏡の中に対して当てのない言葉を求めてんだよ』
なんでばかりの世界。万華鏡の中の世界。
今聴くと、余計に重い。

なんとなくもう終わりの気配を感じたところで、次の曲に対する想いを語る湯木さん。
「わからない」という言葉。
その言葉自体が、捉えどころのなくて曖昧で「わからない」もの。
この先の事なんて、「わからない」。
曖昧を肯定する。
そんな考えの下生み出されたのが、『スモーク』。

『曖昧で良いだなんて思ってないけど』
『手も足も出ないからわからなくなるの』
『正しさなんて誰にもわからないから』

歌詞が刺さる。刺さる。ぶっ刺さる。
ああ、これは、もう、今日はこれで終わりのはずだ。
そんなことを思っていると、更に予想外を叩き込まれる。

新曲、『選択』。
歌詞は強い言葉の連続、なのにどこか優しい。
これは、『選択』を肯定する歌だ。
『Answer』で始まり、『スモーク』と『選択』で答えを出す。
四人の姿が本当に眩しくて、美しくて、
この気持ちのまま、終わらせてくれ…!

なんて、思っていると。

これ以降は来た人と配信を見ていた人だけの秘密としておく。

どこまでも予想外を連れて来るワンマン。
その終わりは……

と思ったが、実はまだ終わっていない。
ライブから、何事もなく二週間経つまでは。
それが、本当の大団円。

きっちり無事でいるために、今日も心の防護服を。

そして、また行くのだ。湯木さんが紡ぎ出す空間に。