圧倒的に走ってく

基本的には行ってきたライブのこと。たまにCDと本と諸々の話。

月見ル太陽ヲ食ラフ

台風が過ぎ去り、澄み渡った空の下。
青い山に浮かぶ巨大な月を背景に、太陽とそれを食らわんとする者の決闘を見てきました。

(訳:青山、月見ル君想フにて行われた、戸渡陽太さんと日食なつこさんのツーマンを見てきました)



青山の住宅街のど真ん中、という、かなり辺鄙な場所にあるライブハウス。
迎賓館の近くという、行くだけで若干不安になる場所。
こんなところでライブ……?と少し訝しげに思いつつ、整理番号順に地下へ。

異空間が広がっていました。

恐ろしいまでに密閉された空間に、ぽっかりと浮かぶ巨大な満月。
幻想的、というよりは畏怖の念すら感じる圧倒的圧迫感。
月に圧倒されたのか、整理番号遅めだったにも関わらず結構前の方が空いていまして、そーっとその席へ。
その時は気が付かなかったんです。この席がぽっかりと空いていた理由を……

開演時刻となり、後方から登場する日食さん。
……ん、ちょっと待て。こんなところまでステージなのか、え、ピアノ近くないか、と思っていると、

結果:日食なつこの目の前

ライブあるあるとしてよく聞く、演者と目が合った!絶対こっち見た!などという話。
そんなレベルじゃありません。

ガチで目が合います。

日食さんをご存知ない方は画像検索してみて下さい。
おそらく鸚鵡のお面持った眼光鋭き女性が出てくるはずです。
そんな方とガチで目が合う(というより双方合わさざるを得ない)席。
じっと見てたら石にされそうな。
でも目を逸らしたら殺されそうな。
目の前にガラスの衝立が欲しい。それかマジックミラー。
近過ぎちゃってどうしよう。
まさかそんなことをリアルに思う日が来ようとは。
これはガチファンの特等席。空いていた理由をなんとなく察しつつ、腹を決めて真っ向勝負することに。目を逸らした方が負けです。

ピアノの一音目。
ガラリと一変する表情。
瞬きすら見える距離。

負けました。

もう一瞬で負けました。
いやまあ、勝手に勝負していたのはこっちにしても。

鬼気迫る音と声。
キーボードの上で躍る白い指。
振り乱される髪とキーボードの下で躍動する美しい脚。
……なんて言うとちょっと如何わしいですが、そうとしか言いようがない。
なんだかじっと見ていてはいけないような、それでいてずっと目を離せないような。

『夕立』から『大停電』、そして、『傘はいらんかね』

それなりに名の知れた進学校を出て、それなりに名の知れた大学に入り、仕事の都合で中退したという彼女だからこそ、作り出せる歌。
上辺だけの人間関係、影に色々と隠し持っている同級生……
その化けの皮を剥がしてやろう、と作り出されたという曲。
目まぐるしく変わるライト、変わらないのは巨大な月。
本番になるまで出てこない、幻の月……
そんな言葉も相俟って、会場全体が、曲の世界観の中に。
幻の月に照らされ、きらきらと輝くキーボード。
ん、あれ、日食さんから光が出ている……?
いやそんなはずは、ライトだライト。
おや、もう日食ワールドに侵食されてるな…そんな感覚が沸々と湧き上がり始めたところで、

「――さあ行くぞ! お前ら!」

お前らいただきました。

後で調べてみると日食なつこファンの総称は「お前ら」「お前たち」のようです。
なんてロックな集団…

それを合図にしたように激しくなるピアノの音。
感情を全て叩きつけるように。
これ本当にピアノ?と思ってしまうほどに。

「お前に私の何が分かる?」
「黙って聞いとけ、いいな?」

いや流石に日食さん、そんなことは言ってません。
言ってないんですが、目が合うとそんな感情が伝わってくる…ような錯覚がするもの。
『少年少女ではなくな』り、『SOS』、叫びは『黒い天球儀』となり、勝負は佳境へ。

自己を戒める『青いシネマ』、決闘相手に捧げるという『剣の歌』
「これまで戦ってきた人を讃えて、この歌を贈ります」
前口上に震えて、紅くなる会場にさらに震えて、釘付けになる。

そして、会場一丸となっての『水流のロック』

そんな日食パート最後は、本人の満面の笑み。
あ、いかん、こりゃまずい。
ギャップが。『水流のロック』からのギャップが……!
完全に心を持ってかれたところで、満を持して今回の果たし合いを計画した方が登場。

真っ青だった会場が一転真っ赤になり、超絶的ギター音からの幕開け。
ベース音のことをビートと言うように、本当に心臓が震える音。
戸渡さんはステージを動き回るタイプなので、目が合うことはあまりない。
良かった、演者と連続で目が合っていたら気が気じゃない

『明星』に向かったり、『黄泉のゴンドラ』に連れていかれそうになったり。
勝負というよりは不思議な旅行のような歌の連続。
どこから出してるんだという音と、弦の上を滑らかに滑る指先。
……あ、ギターの話です。念のため。

そしてそこで、話は戸渡さんの近況報告に。

「小倉アイスを頼んだらオムライスが来た」
「お疲れ! って知らない女性二人組に頭を叩かれた」
「その後のお互いの気まずさったら無かった」

まさに『SOS』

……どうやら戸渡氏も日食氏に負けないワールドをお持ちのよう。

それもそのはず、このお二方、同い年。
男女の違いと、弾く物がピアノかギターかの違い。

「いや、ギター、録音ですけどね」

……またまた、そんなご冗談を。

会場の笑いを誘いつつ、更に激しくなるギター、観客の視線は指先に釘付け。
あれよあれよという間に最後の曲となり、勿論鳴りやまぬアンコール。

キーボードが登場し、戸渡さんがその前に。
え、あれ、あなたが弾くんですか?
なんて空気で、響き渡る見事な音色。

「……冗談ですよ」

ちなみにドビュッシー『月の光』でした。
……お茶目な方です。

戸渡さんに呼び込まれ、最初のように後方から登場する日食さん。
キーボードの位置が変わったので、今度は目の前ではない。
ちょっと残念でした

おそらく両想いだと思います、という言葉から始まったセッション。

尾崎豊『I Love you』

壮絶ピアノと超絶ギター。

目が四つ欲しかった。
別々に聴いていた時はわからなかったのですが、この二人、声が似ている。
似た声でハモると非常に綺麗な響きになるとは聞きましたが、混乱するレベルに素敵だった。
ちなみに日食さんの方が声が低いという。
……戸渡さんが高過ぎるという可能性もなきにしもあらず。

最後笑顔で見送る戸渡さんと手を振る日食さんの姿を目に焼き付けつつ。
ボーッと地上に帰還しますと、そこには幻ではない月が。
……なんだか貴重な体験をしたような不思議な気分で帰路につき。
セットリスト出てるかな、と日食さんの呟きを見に行きましたら

気がついた時には次のツーマンのチケットが手元にあったんですがこれは仕様ですかね

今日の思い出:

発光する日食なつこ