圧倒的に走ってく

基本的には行ってきたライブのこと。たまにCDと本と諸々の話。

半径数mの先

"息をするように"@下北沢Laguna。
計らずしてツーマンになったこのライブは、静かに闘志を燃やすようなライブでした。

その日、下北はとても密だった。
この前は閑散とし過ぎていた気がしたが、今回は密だった。
自分も外に出ているから強いことは言えないが……なんにせよ下北は密だった。
雨が上がった後、というのはただでさえ蒸し暑く感じるものだが、こう密だと、余計に。
もう慣れた道順でLagunaに向かうと、そこだけは人も疎らだった。
……そこはかとなく寂しさも感じるが、今は行くも行かないも正解なので何とも言えない。
間を空けて並び、受付と消毒と体温測定。
もはや当然の光景になってきている。いつまで続くのだろう、とも思わなくなって来ているのが少し怖い。そうは思っても勿論徹底するが。
ドリンクを引き換えて、席を選ぶ。
前の方が意外と空いているな…と思いつつ、開演時間。

さのめいみ。

ええ?と思ってはいたんですが、さのめいみ。さんのライブに行くのは去年の9月以来。
配信では見ていたけど、もう半年以上経つのか…。
音もなくやって来る黒い服……と白い服。
さのめいみ。さんとサポートの清野雄翔さんだ。
いつもなら挨拶をしてから始めるスタイルだが、今回は無言のまま始まる。
低音のイントロ。低音の第一声。
……『相』だ。一曲目からこの曲か…!と背筋がヒヤリとした。

『さよならを数えては ありがとうと思ってきた』
『傍にずっと居るよ 愛しているから』

この曲は、重く深い愛情のことを歌っている。
恋愛というには重過ぎる愛情。その喪失と、新たな決意を描いた歌。
そしてタイトルは相手の『相』……
最後に、『忘れないで』を二回言って、この曲は終わる。
間髪を入れずに、これまた特徴的な音。
雨音すら聞こえて来そうなイントロに、深海に潜っていくような軽やかな音が重なる。
『water』だ。

『ごめんね、って泣いたって誰も許しちゃくれない』
『さよなら、って言ったって誰も答えちゃくれない』

以前より早口のMCと、サビ前のこのフレーズ。一曲目の選曲と相まって、色々と察してしまう。
様々な人に影を落としている、その理由は。

「最近、よく考えるんですよ。もう会えなくなってしまった人のこととか」

このことに関して私は明言しないが、すぐ思い当たってしまって、やるせない気持ちになった。
水の雰囲気を感じた所で、続いては雨女だというさのめさんの体験談も交えた、『Squall』。
そこからの『タイムマシン』と『日々』には泣くしかない。
元々は特定の人に向けて作ったはずの曲が、いつの間にか、色々な人に向けての歌になっている。
何でもない日常が続いていくことが、いかに美しいことで、いかに難しいことか。
そして、過去に戻れるとしても、今と同じ未来を選ぶ。そう言い切れることの強さ。
グズグズになりそうになって、今日マスクあって良かったな、と改めて思った。

久保詩音

キーボードが片付けられて、奥からギターを携えた人がやって来る。
名前は知っていたが、久保詩音のライブを見るのは初めて。
その第一印象は、流し。
スパーンと好きな歌歌って、さっさと帰る。
カッコよくサラッと歌って、はい おしまい。
どうしてだか、そんな印象を受けた。
しかし、聴けば聴くほど、素直なその言葉に頭を叩かれる。
特に心に残ったのが、名称未定の新曲。

果てしなく前向きで、この先に向かおうという意気が音圧になる。
自身の半径数mから飛び出そうとする様子が想像できて、気持ちが上がる。
殻を破って攻撃力と特殊攻撃と素早さがぐーんと上がっていく感じがする。
丁度外から雷鳴が響いたのも演出のように思えた。

新曲のタイトルは各々考えて欲しいということなので、いくつか考えてはみたけども、名称未設定でも格好いい気がする。あくまで主観だが。

この人のライブにはまた来ることになりそうだな…と思いつつ、アンコールは無いということなので、大きな拍手で見送る。

余韻びたびたのまま外に出ると、大嵐。
…Squallどころじゃない。
やっぱりセイレーンなのかもしれないな、などと馬鹿馬鹿しいことを考えながら、半径数mを飛び出すように、走って帰った。
雷も響いていたが、何故か晴れ晴れした気持ちになっていた。
また来よう。雨の下北は相変わらず密だったけど。