圧倒的に走ってく

基本的には行ってきたライブのこと。たまにCDと本と諸々の話。

孤独と夢は下北にあった

KITAZAWA UNPLUGGED vol.25@下北沢MOSAiC
今年初の生ライブは、じんわりとあったかくなれて、少し泣いてしまうようなライブでした。
うろ覚えの箇所があり、MC等は一言一句同じではないことは先に断っておきます。


今年初下北だと意気込んで行った先、早くも驚くことになった。
人が少ない。
「下北沢」で画像検索して貰えば分かりやすいのだが、狭い中に店が密集しているため、元々は人口密度が非常に高い土地で、前回の緊急事態宣言の時に来ても人はそれなりに居た印象だった。
その是非は今は置いとくとして、目の前にあるのはとにかく閑散とした道。なんとなく恐怖を感じるほどに。

MOSAiCの前に辿り着くと、やっと人影が見えた。
しかし、驚くほど少ない。
以前の…50人限定より遥かに少ない。
一発で身バレしかねないほどの人数の少なさ。
戸惑いながらも、受付、検温、消毒は滞りなく終わる。人数が少ないというのは利点もある。
距離を置きながら並ぶドリンクカウンター。
ここで選ぶのはやはり、MOSAiC名物の、各アーティストをイメージしたカクテル(ドリンクチケット+100円)。

「Mei…水平線
 みねこ美根…毎日が煌めく
 藍谷凪…眠る花      」

…なるほど、どういうカクテルか全く想像がつかない。

フロアに降りる。
分かってはいたが、人がほとんど居ないフロアは少しひんやりしている気がした。
平日の18:00頃では職業柄来れない人も多そうだ。
ステージにはキーボードが一つだけ。
アンプラグド、と言うだけあって、線が繋がる類のものはステージ上に見えない。
席数は…かなり少ない。テーブルが設置されている分ディスタンスはあまり気にならないが。
真っ赤なカクテル、『眠る花』を飲みながら開演を待つ。
少し甘くて酸味もあり、弱炭酸。非常に飲みやすい口当たり。
赤いのはやはり花の色からなのだろうか。味は林檎に少し似ていたけども。
開演時刻が近くなると、やっと人が増えてきた。
……増えてきたと言っても席は埋まらない程度。
キャパシティの半分にした席が埋まらないぐらい…考えようとしてやめたところで、開演。

Mei

ゆったりとした足取りでやって来る長髪の女性。
座って曲を弾き出した…のだが、角度の問題でまるっきり逆光になってしまった。
初見の方なので「顔出し不可の人か」と勘違いが入るぐらいには。
『水平線』という言葉が印象的な、綺麗な歌声。
カクテルの元になった曲か!と頭の中で繋がって、少し楽しくなった。
二曲目、『花火』の歌詞がやけに耳に残る。
三曲目辺りで逆光にならなくなった。
笑顔が素敵な人だ。
そしてMCが、特別なことは言っていないのに、なにやら不思議な雰囲気をまとっている。
歌声と語り口調に少しギャップがある。
仮にテレビなどに出るようになったらレギュラーを獲得しそうな感じがした。

……なぜかは分からない。

出番が終わって、チラシを配るその姿と、チラシの内容を見て、それは余計に強くなった。

まとう雰囲気なのだろうか。
未だに、なぜこの感想を持ったのか分からないでいる。

みねこ美根

キーボードの傍らに、ギターと小さな電灯が設置される。
会場BGMが止まって、登場BGMが流れる。
なんだかんだでみねこ美根さんを見るのは四回目で、この独特な世界観にも少しだけ慣れてきた。
オルタナティブシンガーソングライター……新進気鋭な表現者。そのキャッチフレーズをなんとなく思い出す。
ギターが鳴り、一声目、『傷跡』。

……恐ろしく低い所から出てきた。

今日のみねこ美根は強い…そんな心意気をひしひしと感じる。

「…私、鼻炎気味で、鼻がピーって鳴るんですね。だからマスクをするとピーピー、ピーッて、あら、お豆腐屋さんかしら?って」

「『悲鳴』…はやめて、『黒髪のワルツ』…」
「あ、でも、今『悲鳴』聴きたいって目をした方が居たので、『悲鳴』もやります」

…つよい。

そんな目しただろうか…会場全員が思ったに違いない。

ギターとピアノの力強さと、トークの強さ。
…と、機材の扱い方の妙。
雰囲気としては劇場型…女優然りとした佇まい。
相変わらずアーカイブを残さないスタイルらしいので、ここに詳しくは書かない。説明は抜きにして、まず見に来て欲しい。
そんな強い思いを感じた。

とりあえず、耳鼻科に行ってください…

藍谷凪

青い空間に、降り立つ影。
前に見た時はサメ谷凪さんって感じだったが、今回はしっかり藍谷凪さんになっていた。

instrumentalから始まり、新曲。
言っていなくとも、歌詞の内容で分かるそのタイトル。
『眠る花』…このカクテルの元になった曲だ。
印象派をイメージしたというこの曲は、聴いていて情景が浮かぶ。
眠る花…睡蓮か、と気付くと、余計に。

そして次の曲は、以前からの定番曲、『君がくれた花束』。
赤く赤く染まる花束、と感情。
この曲は封印しないんだな、と嬉しく思っていると、
次の曲で、叩き落とされた。
花束が、ひとひらずつ散っていく。
君に渡した花束が、ひとひらひとひら
歌い方と曲調で、ひとひらずつ散っていく様を想像してしまって、柄にもなく泣きそうになった。

この人は…曲を物語ごと葬る気じゃなかろうか。

呆然としていると、次の曲で終わりだと言われて、余計に呆然とすることになった。

「皆さんは…孤独は…好きですか?」
「孤独を好きになれるって良いなと思って、曲を作りました」

曲を葬るようなことをした上で、孤独の曲。
一本の物語を見たような気分になった。
その曲の並びは、反則だ。

全力で拍手をして、帰路についた。
来たときは迷っていたが、終わってみると、またライブに行きたい、そう強く思えるライブだった。
行くことを選ぼうと、行かないことを選ぼうと、どっちみち罪悪感がある不条理さ。
行くも行かないも、ある立場から見れば正解で、また違う立場から見れば不正解。
行くと決めた以上は最大限に気を付けて楽しむ。これしかないと思う。

帰り道も閑散としていて、寂しくなるぐらい人がいない。
いや、まったく悪いことではない。悪いことではないけども。

少し感傷的になりながら向かった下北沢駅は、時短の為か、ライブハウス以上に密だった。

……そこは孤独を楽しませて欲しかった気がするが、お疲れ様です。色々と。