圧倒的に走ってく

基本的には行ってきたライブのこと。たまにCDと本と諸々の話。

From_To_はあなた次第

From_To_@渋谷WWW X。

元々渋谷WWWで行われることだったこのライブは、会場変更や諸々の事情など感じさせないライブでした。

2020年9月24日。
22日の余韻も冷めやらぬまま、再び渋谷に向かうことになった。
その日は朝から雨。台風直撃なんて話もあった。
いつかのMCで「とんでもない雨女」とは言っていたが…まさか「嵐を呼ぶ女」とは。
強めの風を感じながら、渋谷WWW Xへ。

密対策の時間差呼び出しの為、少し時間を持て余してしまった。
手持ちぶさたになって、チケットを見ていた。
1月に買った手売りのチケット。
延期などではなく、始めからこの日程だったという慎重さが開催の肝かもしれない…しいて言えば嵐だけども。

消毒、ソーシャルディスタンス、分散入場。
二段階の本人確認に、体温測定、もう一度消毒。
今出来ることを全部詰め込んだような会場設備。
なんなら会場自体もより距離が取れるWWW Xに変えたという徹底ぶり。
少し張り詰めた空気の空間に、響くアナウンス。
歓声禁止、会話禁止などなど、数々の禁止事項。そりゃそうだな、と思いながら、次の項目。

『安全のため、ダイブ、モッシュは禁止とさせていただきます』

へえ、ダイブとモッシュ駄目なんだ…いやいやこのライブで発生しないでしょうよ、とツッコミを入れてしまったらたぶん負けなんだと思うが、つい心の中でツッコんでしまった。
それとも発生するような曲があるのだろうか。…うん、それはそれで楽しそうだが予想がつかない。

『……さのめいみでした』

少し空気が和やかになったところで、種明かし。
こういう演出もワンマンの醍醐味である。
和やかなまま、開演時間。

入場してくる真っ黒なシャツと真っ赤なロングスカート。
後から言っていた話だが、今回は全員赤で合わせたらしい。

今回は語りたいことが多いので、曲ごとに記録していく形式に。
後からアーカイブで補完した箇所もありますが、MC等は一言一句同じではないことは先に書いておきます。

1.タイムマシン

会場BGMの『ライト』が止まって、すかさずこの曲に。
CD音源と変わらない歌声に、一瞬そのままCD流しているのかと錯覚した。
過去に戻るタイムマシンが、もしあるとして。
この過去を変えれば未来が変わることを分かっていたとしても、きっと今と同じ未来を選ぶだろう。
「その過去を変えてやる」とか「過去と決別する」のではなく、「過去を受け入れる」。
だんだんと迫力を増す歌声と相俟って、何度も聴いた曲のはずなのに息を呑んだ。

2.太陽の歌

原曲より少し早いバンドアレンジ。
『笑顔や幸せの下に犠牲が無いとは限らない』
『道なき道をゆけ。なんのためにあるのかを、求め続けて歩むのか?』
過去を受け入れる『タイムマシン』の次に、この曲、というのは、そんな意図がないとしても、つい考えてしまう。
その未来は、何の上に作られているのか。
照明の雰囲気が、冷たさの中にどこか温かさも感じる色をしていた。
『思い違わないで あなたの命は悲しいものなんかじゃない』
『生きていても、良いだろう?』
このメッセージがどれだけの人に伝わるのだろう…と考え込んでしまう。

3.最終回

『最終回の感動のシーンは、誰か犠牲にしても構わない』
から始まるこの曲。
『歌わなくたって走らなくたって息は切れるだろう』
『喋らなくたって動かなくたってボロが出るだろう』
これを歌う時、さのめいみ。に何かが憑依している気がする。
『そんな見透かしたような目で僕を見るなよ』
『触らないでくれよ!』
人生を全て悟ったかのような歌。
頭を抱えるような手振り。
どうも芝居がかったその目には、確かな狂気が宿っている。

4.カタコト

雰囲気のある照明。弦の音が柔らかに響く中、新曲、『カタコト』。
『愛が何なのかは暗がりの中に』
さのめさんには珍しく、がっつり恋愛の曲だ。
片想いのことを一方通行の『カタコトの愛』と称するこの曲は、奇妙な色気に包まれている。
『この体に深く刻まれた傷を 優しくなぞって塞いでくれ』
と歌うその姿は、吸い込まれそうなほど色気があった。
「歌っているときは色気があるのにね」
と誰かに言われたらしいが、この色気は確かに…と思わざるを得ない。
普段が色気がないというわけではなく、それが何倍にも増すのだ。
え、『最終回』と同じ人が歌っているんですよね…?となる。

5.日々

「会えて話せることって、良いですよね」
という言葉から始まった5曲目。
アレンジが大きかったため、一瞬何の曲か分からなかった。
綺麗なピアノソロの後に、通常のフレーズ。
奇跡など起きない普通の『日々』を、幸せだというこの曲は、決して普段通りとは言えないこの時世には響く。
なにが幸せなのか。それが分からなくても、この日々は続いていく。
そういう何気ない日々が、幸せなんじゃないのか。
まだ5曲目なのに、泣きそうになった。
というかこの曲を5曲目でやって良いんですか…?という気分にもなった。
既にさのめいみ。の世界に浸りきってしまう。

6.灯火

ここからは弾き語りのコーナーだとバンドメンバーが退場して、『灯火』。
『遠い砂漠に一輪の、凍るほど寒い空の下で、小さな花を咲かせたい』
ある人の誕生日に寄せて作られたというこの曲は、砂漠に花を咲かせたいと一心不乱に奮闘する『彼』をひたすら応援する曲だ。
いや、ある人と書いたが、実はその贈られた主を知っているし、どこに向けて作られたのかも知っている。
『四谷天窓』だ。
この曲は、今聴いたらまた違う意味を感じてしまうと思う。

7.素直

「誰かと話すときに、これがもう最後だと思って話すことって、あります…?」
「これが最後だと思えば、素直に話せるんじゃないかって思ったこと、ないですか」
そんな言葉から始まったのは、こちらも新曲、『素直』。
誰と話すときでも、『素直』になれたなら。
もっと生きやすいのではないか。もっと、『素直』に生きられるのではないか。
これが最後だと、思えば。
優しい曲調だけど、どことなく終わりを感じさせる曲。
これで終わりだと思えば。
まだそこまでの考えは持てないな…とぼんやり思う。

8.週末、日曜日

終わりを感じていたら、この曲が来た。
週末、と言っているが、この曲で話しているのは『終末』の話だ。
ノストラダムスが描いた終末』
アリストテレスが唱えた真理』
こんな歌詞が出てくるのは世界探してもこの曲しかないだろうと断言できる。
流れるような曲調、暗いようで明るい歌詞。
しかも、『終末の日曜日』を『丸ごと寝て過ごす』のだ。
これぐらい肝が据わっていれば、週末も終末も同じなのかもしれない。
『いつになったら予言は変わるの?』
……さあ、いつだろう。

9.月の花

この曲には元になった話があるらしい。
月の花、という綺麗な花を、庭に咲かそうと奮闘する話。
登場人物は、どこかに行ってしまう男性と、その男が愛する人
……どことなく『灯火』の砂漠に花を咲かせる話と重なる。
『月の引力にひかれて何年先でもいつか、ここへ帰ってきてほしい』
『重力六分の一くらい 宙に浮くようなステップで』
ここのピアノが本当に跳ねるようで、気分が楽しくなる。
歌詞は悲恋のようだが。
余談だが『重力六分の一くらい』が毎回『十六六分の一くらい』と聞こえる。
そんな単位はないが、宇宙なら有り得そうだな、とか考えてしまう。
ちなみに十六の六分の一は割り切れない。

10.相

十曲目は今回三曲目となる新曲、『相』。
「大切な人が、本当は一人じゃないのに『私はひとりだー!!』って言っているのを見かけたら、傍に居る人はさみしいんじゃないかって」
ということから考えたというこの曲は、胸を刺す言葉の数々が襲って来るような曲だった。
『俯いてきた分だけ首元に深く寄る皺が、鎖に見えると』
『ナイフのような言葉で傷付けてもあなたの傷は治らない』
と分かっているのに、それでも『傍にいるよ』というひと。
重く苦しい「愛」であり、強すぎる「I」でもあり、「会い」やら「逢い」やら「合い」でもありそうな感じがしたので、曲名は「あい」かな、と思っていたら、セットリストに『相』と書いてあったので驚いた。
「相手」の『相』。つまりこの曲の主人公は、悩んでいる人ではなくて、傍にいる「相手」……
気付いてしまうと、余計に震えた。

11.明日への手紙

『相』のゾクゾクを抱えたまま、バンドメンバーが戻ってきて、カバー曲のコーナーになった。
カバー曲一曲目は、手嶌葵さんの『明日への手紙』。
もうタイトルを聞いただけでこれは絶対合うな、と思った。
一声目で、予想を超えてきた。
優しい歌詞が、さのめさんの声に乗せられるとそれだけで頭がぼんやりしてしまう。浸透圧…
…よし、手紙書こう。そんなことを考えるくらいには頭に余裕ができた。

12.眠りの森

続いてのカバー曲は冨田ラボ feat. ハナレグミの『眠りの森』。
といいつつ実は原曲を知らなかったのでさのめさんが初聴きとなる。
爽やかな曲調と、少し色気のある歌詞。
耳に心地いい風が流れるような歌で、つい眠くなる。
キャンプ場で寝転んで聴きたいな…となんとなく思った。
愛とはなんぞや…とかとりとめもない話でもしながら。

13.恋とマシンガン

カバー曲ラストはフリッパーズギターの『恋とマシンガン』。
自分の曲は中々暗めの曲が多いが、実態は歯磨きしながらこの曲をダバダバ歌って洗面台べちゃべちゃにしてしまうぐらいには明るいというさのめさん。
…それはそれで少々心配になるが、楽しいならなにより。
なんにせよ たまにはこういう曲も歌うんですよ、とセットリストに入れたというこの曲。

楽しげなイントロと共に、

さのめいみ。の目の色が変わった。

比喩じゃなく、スイッチが入った瞬間が分かった。
この人は何人の人間を内に抱えているのか…と思ってしまう。
楽しげな声と手振り。
途中のメンバー紹介も全開に楽しげだ。
『走る僕ら 回るカメラ』のところでは手でカメラを作るし、『君のハートを撃ち抜けるさ』と言えば手で拳銃を作って明確に心を撃ち抜いてくる。
まだアーカイブ見ていない方、これから観る予定の方……覚悟しておいてください。
撃ち抜かれるから。
これは確かに絵に描きたくなる…

14.ライト

その場の全員を撃ち落とした後は、暗闇のどん底へ。
暗闇から、光のある場所に連れ出さないで欲しい、という『僕』。
『君』は光だから、眩しすぎて、何も見えなくなってしまう。
…文字に起こしてしまうと気恥ずかしくなる台詞なのだが、これを歌で聴くとそうは思わない。
ピアノの音と弦楽、ドラムの音、さのめいみ。の歌声。これが揃えば、劇を見ているような気分になる。
『僕の事、愛さないでいて』
『君のこと、愛してしまうから』
……いや、私が言うとキザすぎるが、これがさのめいみ。パワー……

15.リピートレイン

今回アーカイブで一番リピートしたのはこの曲。
新曲じゃないらしいのだが、知らない曲だったので実質新曲である(?)
バンドアレンジがバチバチに格好良い。
さのめさんの鋭い声がこの曲を更に格好良くさせていく。

同じ雨の日を繰り返していることに気がついた『私』。
『止まない雨はないと、嗚呼、嘘つきはだあれ?』
ずっと降りしきる雨。外の雨の音すら聴こえてくるような気がする。
『その時はこの雨が降る前を思い出せなくなっていた』
という言葉の通り、この曲ばかりリピートしてしまう日々。
これが本当の『リピートレイン』…!
なんて大真面目に言ってしまうぐらいにはリピートしていた。とりあえず音源下さい。

ただ、リピートするにあたって、途中に入る放送禁止かテスト放送かのような信号音が心臓に悪かったことだけは付記しておく。

16.サカナ

さのめいみさんは魚が本当に好きなんだそうで、グッズにも魚を採用している。
どれくらい魚が好きかと言うと、
水族館に行った後で寿司屋に行くほど。
……あえてはツッコまない。

そんなさのめさんの、『サカナ』。

人魚姫は海底に生きづらさを感じて地上を目指すが、地上に生きづらさを感じた『私』は、自分を『サカナ』と思うようになった。
ピアノを清野雄翔さんに任せてステージを自由に動き回るさのめさんの姿は、楽しそうに泳いでいるようにも見える。
アレンジで別曲のようになっていることもあって、自由度が更に上がっている気もした。

『正直者が私を「ヒト」だと言ったって』
『大嘘つきが私を「サカナ」と呼んだって』
『関係ないの いつでも私が私を決めるの』

『この世界を生きる私は――』

ところで、人魚にはセイレーンと呼ばれる個体がいる。
美しい歌で人間を魅了し、嵐を呼ぶとも云われる半人半魚。

……ん?

17.ゆっくりと

心に持ち上がった疑惑はさておき、もう最後の曲。
この曲はかなり前に作った曲らしく、聴いてみると確かに荒削りな感じがする。
優しい調べの上に、優しい歌詞。
ゆっくりとでいい。急がなくてもいいと、頻りにいう。

「……また必ず、生きて、お会いしましょう。ゆっくりで、ゆっくりでいいから」

届いた涙声は、こちらの涙も誘う。
生きて、お会いする。
それが、どんなに大切で、どんなに難しいことか。

退席していくさのめいみ。しかし音はまだ続く。
今日が終わっても音楽はまだ続く。そう言われているようにも思えた。

グッズを買って、会場を出ると、雨は上がっていた。
出来すぎているような天候に、マスクの下で笑うしかなかった。
そして道を間違える。いつものことである。
しかし今日はそこまでへこまなかった。

生き急ぐ必要はない。
『ゆっくりと』でいいから、またさのめさんに会いに行こうと思う。

それまでの当面の目標は、このさかな手ぬぐいとさかなマスクを着けて寿司屋に行くこととしておく。