圧倒的に走ってく

基本的には行ってきたライブのこと。たまにCDと本と諸々の話。

灰になるのは

やっと文章化できたsing wellキネマ倶楽部の箍の外れまくった感想…のようなもの。
曲名は極力出さないようにしましたが、リクエスト曲ともう二曲だけ、どうしても伏せきれず。
長い上にだいぶうろ覚えな部分もあることをお許しください。

前日、楽しみすぎて寝られないという事態に陥り、気を落ち着かせるため、六本木のことを思い返した。
六本木でこれ以上ないぐらいの光景を見たから、「セットリストも分かっているし、あれ以上のものはないだろう」と頭を冷やして。
なんとか眠りにつくと、妙な夢を見た。

目の前に日食なつこがいて、何発も殴られる。
痛みは無い。怪我も無い。
ただこてんぱんにのされて、道に転がされる…という夢。

起きてすぐ精神状態を疑った。
どんな夢だよ、と脳内でツッコミも入れた。
とりあえずチケットを見た。
……これ、どっちの前の席だ?

夢うつつで浮き足立ったまま、向かったキネマ倶楽部。
先週もここ来たな、キネマ倶楽部の人に、あれ、あの人また来てる?とか思われてそうだな、などと思いつつ、エレベーターに乗って入場。
同じ志の人間が10人ぐらい箱詰めにされて上がるのは何度行っても異様な光景の気がする。

緞帳が煌びやかに見える一階席。
席順は左から1番、2番と数えていく形式。
結果、ドラムの目の前の席になった。
……妙な期待をしていたのは内緒だ!あくまで夢だ!
と心を落ち着けつつ、ドリンクを飲む。
空調が効いているからか、室内なのになんだか肌寒い。
そんな中、氷のゴロゴロ入ったドリンク。永久凍土に埋まる準備は整った。

完全ドラム側なので、ピアノ側はあんまり見えないかな、と思いつつ、開演時間。日食なつこが手を振ってやってくる。
そこでやっと気が付いた。
冷静に考えれば、ピアノの目の前だったらピアノに邪魔されて見えない箇所が多い。
ドラム側なら、手元以外全部見える。
六本木の時は中央寄りの席だったから気が付かなかった。
これとんでもない席じゃないか…?気付くのが遅かった。
考えが甘かった。

一曲目、六本木の時よりそっと歌っているような印象があった。
喉を労っているような、力を抑えているような。
……単純に喉の調子が悪いのかな?とも思った。

その危惧は、二曲目で杞憂に変わった。
唸るようなドラム。
目の前で見ると、音で殴られているような感覚に陥る。
隣に座っていた子はずっとドラムの叩き真似をしていた。
確かにこれは真似したくなる……出来ないけど。
日食さんが叩きつけるようにピアノを弾けば、komakiさんはそれに応えるようにドラムを打ちつける。
舞台上で戦っている。
それが見ている人にも伝わって、熱量が上がっていく。
三曲目、鼓動とともに早くなるドラム。隣のドラムも早くなる。
四曲目でkomakiさんが退場したので、隣の子の手も止まった。ここでフィドル入ったな、タップダンス異空間だったな、と六本木を少し思い返しつつ。
ないことで引き立つ箇所もあるらしい。刺さる歌詞に固唾を呑んで、何曲目だったか。
思い過ごしかもしれないけど、六本木と少し違う演出があった(気がする)。

『11年』の最後の方の歌詞、

『君と、君の隣の女』

と言った瞬間に、日食さんの真横のライトだけが、真っ赤に光った。

その印象が強烈で、頭はまっしろ。次に音が聴こえた時には、日食さんの言葉が重く頭に響くことになった。
その言葉はここには書かないけれど、本当に重く重く響いた。
六本木でも言っていたような気もするが、今回で強烈に頭に残ってしまった。むしろなぜ今までスルーしていたのか、というぐらいに。

ボーッとしている内に、場内は青くなっていた。
そして、また一層肌寒く感じた。
空気が凛として、日食さんの声だけがスーッと反響している。
MVで映る青い洞窟ってこんな感じかな、となんとなく思った。

カバー曲でまた空気がガラリと変わって、こりゃ歌わなかった方の歌もぜひ聴きたいな、と思っていると、komakiさんが戻ってきた。
「ここからはまたダブルロン毛でお送りします」
会場笑う。

が、曲が始まるとまた空気が張りつめていく。
日食なつこが足を踏み込む。komakiがニヤアッと笑う。
真っ赤になった会場に、二人の影が映る。
いつの間にかまたエアドラムを始めていた隣の子。スピードはどんどん速くなる。
いつの間にかこっちの体も勝手に動いている。
日食komakiのキューティクルが輝いている。……そんなことはどうでもいい。
格好良い、という言葉で片づけてはいけない気がする。
けど、もの凄く格好良い。
いつの間にかギターが増えて、いつの間にかベースが入り。
そろった4人の精鋭、その名は、「ロン毛メガネ」――!
いや、それは反則です。
ダサカッコいいの代名詞USAをしのぐばかりの反則。
こんなふざけたバンド名(失礼)で、全員が観客を殺しにかかってくる。
強い、としか言いようがない。

周囲は初見の人が多いらしく、クラップのタイミングで少しヒヤヒヤ。komakiさんの方見ながらなんとかついて行った。ちゃんと覚えなくては。宿題が増えた。
それでも日食さんが褒めてくれたから、自然と顔が綻ぶ。
先生に褒められて喜ぶ小学生か。

楽しんでいる間にバンド編成は終わっていて、また日食さん一人編成。
空気がまた洞窟に変わる。
長い静寂と、どうやって出しているのかよく分からない音の連続。
これ夏の歌…?とどうしても思ってしまう異空間の音楽。
そして、また空気が研ぎ澄まされていく。
背筋が伸びる。凍り付く。明日からちゃんとしないと、と関係ないことを思う。

去っていく日食さんの背中に、鳴り止まぬアンコール。

ギターが運び込まれてきて、来た来た、とまた浮き足立つ。
戻ってきた日食さん。中央に座って、語りかけるように、歌をひとつ。
過去をかたるような歌。
ノンフィクションか、フィクションか。
おそらく、答えを出さない方がいい歌。
『あたし』から日食なつこに戻って、やっと笑顔が見えた。
まぶしいなんてもんじゃなかった。
それにしても近い。近すぎる。どんな席だここ、と今更思う。顔を突き合わせていられなくて、何度も伏せた。
この席向いてないな、とアンコールにもなって思った。
日食さん、「いい顔してるぜ」
と会場に向けて言っていたが、こちらの顔はちょっと見せられないぐらいだったと思う。マジックミラーが欲しかった。
あっちはなんも気にしちゃいねえよ、自意識過剰だよ、そう言い聞かせて顔を上げた。

リクエストタイムの前に、10分取ってあるというkomakiさんのおしゃべりコーナー……ではなく物販紹介。
日食さんに呼ばれて飛び出すkomakiさん。

なんと中舞台から登場!

色々言いたいことはあるけど会場爆笑。
日食さんもはにかんでいる。
ドラムのようにボケを畳みかけるkomakiさん。
あれがさっきまでとんでもないドラム叩いていた人ですか。
楽屋から取ってきた度数の強いメガネかけて手すりに腰掛ける姿、最高にクールでした。
そんなボケ渋滞を笑顔で冷ややかにあしらう日食さん。
朗らかなやりとりをしたかと思えば、
次の瞬間結構マジなトーンで、

「心臓抉り取ってやろうか」(物理的に)

日食なつこのえいきゅうとうど!
こうかはばつぐんだ!

……いやー、すごかった。

気を取り直してリクエストタイム。
何人かがフライング回答をしたのを受けて、
「マイクを向けられてから」一斉に叫べ、とのお達し。
仕切り直し、叫んだのはもちろん『廊下を走るな』。
……と言いたいところだけど、身バレまっしぐらなので個人的な思い入れのある曲を叫んだ。
飛び交う曲名。『LAO』と『竜巻』が聞き取れたけど、一番大きく聞こえたのは、『デレツン』。
……ラジオ聴いてる人しか分からない話だ、とkomakiさんも日食さんも笑っていた。
大丈夫です。皆さまの心に刻まれています。
そうして最終的に選ばれたのは、『ハッカシロップ』。
フライングで聞こえた声の一つだった。
フライングするぐらいの気概がなきゃ届かない、ということか。
こんな生半可な声じゃ届くわけねえ。
後ろで嬉しそうな声が上がった。それだけでもう拍手したくなった。

照明で再現された『ハッカシロップ』の夕暮れ。
息を呑むぐらい綺麗だった。
1番だけでもゾクゾクしたのに、
2番からはドラムも加わって、また心臓ぶん殴られた。
隣の子がまたドラムを合わせている。
うん、あなたきっと素敵なドラマーになれると思う、とだいぶ無責任で誰目線なことを思っている内に、もう最後の曲。

「最後ぐらい私達を追い越して行けよ!」

「キネマ倶楽部立て!」

『      !』

跳ねて、叫んで、心臓打たれて、導かれて。
ぶん投げられたスティック、思わずよけそうになって、舞台に落ちていくまで見届けた。
気がついたら、終わっていた。

衣装小屋の裏側のような階段を下りながら、まだボーッとしていた。
あれは正夢だったらしい。さすがに道に転がることはないけども。
『11年』の真っ赤なライト、その後の言葉、sing wellの意味。
ぐるぐる思い返していると、後ろから、知らないお姉さんの声が届いた。

「――いやー、最後の曲よかったなー。あのー……マングローブだかマグロどーん!だかいったやつ」

お姉さん、それ、『ログマロープ』です。
とは、さすがに言えなかった。