圧倒的に走ってく

基本的には行ってきたライブのこと。たまにCDと本と諸々の話。

君はやがて知るだろう

檸檬の棘@EX THEATER。
黒木渚に心臓とられて、骨抜きにされ、灰になるまでの記録。
箇条書き形式で気になったところに触れているので、時系列は割と順不同。
細かい言い回し等は例に漏れずうろ覚えです。


曲とその存在はだいぶ前から知っていたけど、黒木渚のライブに行くのは今回が初めて。


EX THEATERに行くのは一年ぶり二度目。
去年のちょうど同時期、sing well以来。
エスカレーターを降り、入場。
会場は同じなのに雰囲気がまるで違っていた。
まず目に入るのは撮影禁止のプラカードを持ったスタッフさん。
ファンクラブ参加賞の壁紙もSNS投稿禁止の注釈。
……言われなくても上げる気はないが、こんなことを書かなきゃいけないって大変だな、と思いつつ。
2つ目の違いは、『A列がない』こと。
つまりB列が最前。これは盲点だった。
そうなるとこちらの席も一列前になるので、と指さし確認。
……こことんでもなく近いのでは、とそこで気付く。

開演と共に、世界のはじまり

「これから二時間の間、あたしをあなたの本命にしてください!」

二時間だけのバカンス(違う)。
なんにせよ、これから二時間、黒木渚に心を捧げることとなった。

演劇的な演出と、映画的な表現。
めちゃくちゃ楽しそうにギターを弾く人だな…というのが第一印象。
拳突き上げて、『ふざけんな世界、ふざけろよ』。
初っぱなから席が無意味になる。
続いて拳を投げつけるように『解放区への旅』。
思い思いに跳ね、「チクショーチクショーふざけんな」だの「うぉーお!」だの叫ぶ。
……渚教の会合かな?となんとなく思う。
こちらも異教徒のようなものなので強くは言えないが。

虎のタンタン(名字:こし)の紹介が終わると、上からスクリーンが降りてくる。
スクリーンの中で戯れる黒き美人と黒い虎……モデルは言うまでもない。
聴いた人によって解釈がまるっきり変わる曲…というのは大抵の曲がそうだけど、この曲は特にその傾向が強い。イマジナリー的なアレなのか、その他魔法瓶炊飯器等々……真実は黒木渚にしかわからない。

実は初聴きだった『アーモンド』の一節、「こうばしい明日が香る」という歌詞を聞いたときに、あるブログ記事を思い出す。
……どうしようもなく『お前ら』だ。
それからすぐ、滅びて灰になった後に復活する鳥の歌。
それは、渚さん自身のことでもある。

「こうなっていたからこそ、良かったと思えるよ。今は」

続いてステージの真ん中に運び込まれてきたのは……白い…ベッド?
ベッド(らしき物体)の上で歌い始める渚さん……わかった、ここは黒木渚の夢の中だ……!

一通り世界が定まると、MCと云う名の

さなぎの皆さまとの絶妙な掛け合い……
ちょっと内輪感が強めだと思いつつも、結果として面白かった。

またやろう≠ばかやろう。

まったくすばらしきばかやろうどもだぜ……失礼。

世界が壊れる

夢の中を泳いでいたと思ったら心臓をあげたり、死生観を語ったと思いきや、いきなり怒号を上げたり。
表題アルバム一番の問題曲、『しーちゃんへ』の朗読が始まったりと、もはややりたい放題。

背景には如何様にも見えそうな白いセット。
照明とドラムとベースと……語り出すときりがない。
黒木渚の世界にボコボコに殴られて、そのまま心臓を捧げることになる。
ギターは聴かせてもらえた。

『フラフープ』の客煽り、
そうだ、回せるようなタオル持ってないな、というわけで拳をぶん回す。
もちろん車間距離は保ちつつ。
それでも音で殴りつけてくる黒木渚、平静さなんて保てるはずはなく。

『好き! 嫌い! 生きる! 死ぬ!』
からの
『好き! 好き! 好き! 好き!』

こんなコール&レスポンス、他にはない。
好き。

世界が壊れた記念に

ついに自分の世界が壊れたところで、世界にも終焉がやってくる。
終焉を飾る曲は、ツアータイトルと同じ名前の、『檸檬の棘』。
この曲は同名の小説のイメージソング。
単体で聞くと緩やかに死に向かうような歌だが、小説を読んでいると、この曲の主人公がどうしてそう思うようになったかが分かる仕掛けとなっている。
もちろんここの解釈も自由で、真実は各々の心の中にある。
少々こみ上げるような感覚がしてきたところで、黒木渚に頭を叩かれた。
……というのは錯覚で、黄色い風船が頭にぶつかっていた。
風船が跳ねる音。風船の弾ける音。これに渚さんの歌声が加わって、叫び声を上げるしか無くなっていた。
他教徒まで骨抜きにされてしまう。おそるべし黒木渚……!

しかしまだ終わるには足らず

もうとんでもなく盛り上がりすぎていて、アンコールのない世界に慣れすぎていて、一瞬拍手を忘れた。
檸檬の棘』でここで終わりになっても構わん!と思うぐらい叫んだので、アンコールの「渚!」コールには乗れず。すまない。
熱いコールと強い拍手に促され、舞い戻ってきた黒木渚
アンコールって一曲?どれだ?
なんて高をくくっていた後頭部をスパーンとひっ叩く黒木渚
……ではなくてまたどこかで風船が弾けたんだけどそんなことはどうでも良く。
くくっていた意識は『革命』された。
考えてもなかった。出し切ったはずのアンコールが3曲もあるなんて!
印象に残ったのは逆再生の話。

『放浪ミヤネ フル装備
 マーケットアイランド
 ふぅ
 理恵 びっしゃいあす
 葬る だぁだぁだぁ!』

……これだけでなんのことか分かったらあなたも立派なさなぎの一員。

「――外に聞かれてたらどんな宗教だ? って思われそうだよね」

あ、それ渚さん本人も認識していたんですね……

すっかり渚教となったEX THEATER ROPPONNGI。
本当の、最後の最後は、『骨』。
社会の基盤。焼かれても最後に残るもの。
黒木渚の、本当に芯の部分。
そこまでさらけ出して、黒木渚は帰って行った。

『みんなに手紙を書いたから、寝る前に読んでね。恥ずかしいから!』

『ばいばい。なぎさより』

……ん?
幻聴だろうか……?

ともあれ、黒木渚との二時間だけのバカンス(違う)は終焉を迎えた。
ふわふわしたまま会場を後にしようとすると、スタッフさんの叫び声が聞こえた。
ここで撮影禁止を解除、このセットだけは撮っていって良いとのこと。
面白い配慮だな、と思いながらしっかり写真に収めて、帰り際。
渡されたのは洒落た筆記体の書かれた、白い袋。その中には。
先ほどの言葉が幻聴でないのなら、これは、みんなへの……

マスクの中で怪しい顔になりながら、柄にもなく袋を抱えて、会場の姿も写真に収めた。
もしかしたら一年後、またこの場所でとんでもないものが観られたりして。


これがどう見えるかは、その日見た人だけの共有事項。