圧倒的に走ってく

基本的には行ってきたライブのこと。たまにCDと本と諸々の話。

ぶっ壊せ固定観念

tapestry@下北沢DaisyBar。
楽しさと悲しさ、暗さと明るさ…
色々と表裏一体なんだな…と感じたライブでした。

天野花のライブに行くのは2度目。ワンマンは初。
以前見た時に、面白い人だと思うと同時に、何かを隠し持っているように思えた人。
だからいつかワンマンに行かないと、と思っていた矢先の日程決定で、早々に申し込んだ。
…矢先に延期になっての今日なので、余計に思い入れが深い。

看板を横目に見ながら、整理番号順に並ぶ。
結構遅めの方かな…と思いつつも、どうせ後ろの方行くから良いか、と思い直す。
会場に入った段階でそこそこ人が居て、これだと見えなくても仕方無いかな…と思いつつ、席を選ぶ。
と思ったけどディスタンスのおかげで意外と見えるな…と思いながら、開演時間。

入場してくる天野花とバンドメンバー。恐ろしく笑顔だ。
ステージ上をくるくる回る様がなんとも楽しい。

天野花の曲は眩しくなるぐらいの甘い歌詞と、格好良いサウンドのギャップにやられる曲が多い。
しかも今回はバンドバージョン。格好良さが増し増しに増して、バッチバチにカッコ良い。
この時勢じゃなけりゃめちゃめちゃ拳を挙げるやつ…!

三曲ほど歌い終わるとMC、の前に何かを取り出す天野花。
遠目からでは見えないが、何かは本人が言ってくれた。

「すみません。私、いっつも呼吸器を使ってるんですけど、今、ちょっとべちゃべちゃで…」

呼吸器…?と心配させる隙も見せない話術。心配は笑いに変わる。
そんな流れで次の曲は、必需品としている呼吸器を恋人に例えた『ワンルーム呼吸器』。
凄い話術である。
そんなべちゃべちゃの呼吸器を置き、続いては恋人に色々と仕掛ける『サプライズ』。
……歌詞に突っ込んだら負けな気がする。
社会の辛さを描いた曲、『crisis』。
声の格好良さと、その歌詞に更に惹き込まれる。
そして、好きな人が最後に愛する人になりたいという『最後の恋人』。
普段恋愛の曲はあまり聴かないのだが、天野花の声だとすっと世界に入れるのはどうしてだろう。

そこでまた呼吸器を吸う天野花…
やはりべちゃべちゃらしい。そんなこと言ってて大丈夫なんだろうか。
別の心配をしだしたところで、MC。

早いようですがもう終わりです、という話から、曲の説明に。
疲れたら眠るように、疲れた時に聴いて欲しいという新曲、『暁を泳いで』。
天野花の地元である八丈島の花をモチーフにした、『freesia』。
二曲とも、世界には色々あるけどまた前を向こうと思える曲だ。
おそらく、この状況下だから出来たこの曲たち。
今度発売されるアルバムに入るらしい。
これは聴かなきゃ、という気分になった。たぶん話術にやられている。

歌い終え、去っていく天野花の背中に、拍手を送る。
出ていくふりをして、すぐに出てくる天野花。
今回はあまりアンコールの拍手を求めないスタイルらしい。

「アンコールありがとーございまーす!」

なんて軽い口調でバンドメンバーを改めて紹介し、再び笑顔で向き直る。
そこからは、シンガーソングライターとなってからの不思議な話。
あくまでも物語でも語るように、てくてくとその場で歩くような仕草を見せながら、

「(ここに書くのも憚られるような言葉)」
「女の子は格好いいじゃ受けない。可愛くなきゃ」

受けてきた言葉を、軽い口調で、反芻するように言う天野花。
これは……物語ではない。

夢を追うことでそんな言葉にさらされるのか。
夢を追うことで、そんな目に遭わなくちゃいけないのか。

「そんな私ですが…なんと、自身初の、渋谷QUATTRO、ワンマンが決まりました!」

この人は…動かされた感情をそのままにさせないようにしている。できるだけ、明るい方へ持っていけるように。
じわじわと心を叩かれ始めた所で、アンコール曲、『群青』

バンドサウンドと相まって、後ろ向きの歌詞がバチバチに格好いい。
どこまでも楽しくて、でも何かが心に刺さる。
笑顔の内に隠し持った鉄拳が、明確に心をぶん殴ってくる。

このまま終わりなら心がズタズタのまま帰ることになるな…と思っていると、まさかのアンコール二曲目、

『かさぶた』

あれだけ心をズタズタにさせておいて、最後には治して終わらせてくれる、その歌。
振り上げた拳をしまって、また笑顔になる。
しかし、その言葉は心に刺さったまま。

おそらく、天野花自身もまだその言葉にとらわれている。
だからこそ胸を打たれるし、このままじゃいけない、と思える。
収めた鉄拳を取り出すのは、また次のライブなのだろう。
この場で発表された、そのワンマンで。

ぶっ壊してくれよ。天野花。