圧倒的に走ってく

基本的には行ってきたライブのこと。たまにCDと本と諸々の話。

選択のその先は

拍手喝采@日本橋三井ホール
湯木慧大爆発。選択のその先が見えたライブでした。
ありがとうございます。

※記憶で書いているので少しあやふやな部分があります
※MCが入った位置など特に


三井ホールに行くのは初めてで、少しヒヤヒヤしながら場所を調べた。
三越前A4出口直結、コレド室町4F。

これなら迷うこともあるまい、とやって来た三越前A4出口。

結果:コレド室町3で彷徨うことになった

三井ホールがあるのはコレド室町1です。ありがとうございました。
方向音痴も大概にしろって方々から言われそうです…
なお、地下入口があることに気付いたのは帰り道でした。
直結ってここか……

チケットを見せて受付と消毒。
そこで、何か紙を受け取った。

QR部分は都合上省略
QRコード…? 演出で使うので手元に…?
なにやら既に空気が違うな、と思いながら、エスカレーターを上がっていく。
ホール公演だと忘れがちなドリンク交換を済ませ、なんとか時間内にホールに滑り込み、席を探す。
えーと最前は……C列!?
それは想定外だった。つまり想定より二列ぶん前ということになる。
いやいやここ近いぞ、と思いながら、開演時間が近付く。

場内アナウンスが流れ、改めて姿勢を正す。
もしかしてアナウンス湯木さんだったり…?と思ったがそんなことは無かった。
そういえば発表が云々言ってたな、などと思い起こしていると、開演時間。

『――Lady's and gentleman! Welcome to――』

場内に響き渡る耳慣れた声。
この声は……『Correct』で聞き込んだ……!
格好良いとしか言いようのないそのアナウンス。
こういう情勢でなければ歓声を上げていたかもしれない。
既に身バレしているので死角はない(?)

既に世界観に引き込まれていると、ついに幕が上がる。
舞台袖から、湯木慧がやって来る。
ひらひらと極彩色のワンピースを翻らせ、第一声。

この公演のタイトルともなっている『拍手喝采』だ。
歌声が格好良くて、サポートメンバーのソロもあり。
照明に照らされた湯木さんの姿がステンドグラスのように見えた。もちろん拍手を送るしかない。

湯木さんにスポットライトが当たり、続いての曲は『極彩』。
『不安な夜空へ飛び立つ星々』
『促されながら、燃えてく、燃えていくのだろう』
初めて聞いた時に、辛そうに歌う歌だな、と思ったのだが、今回はお腹に手を当てて歌うので、余計に辛そうに見えた。
この曲もまたコーラスやドラム、ベースが印象的だった。
聞いているとこちらも胃が痛くなって来そうである。
手を空に掲げて、飛び立ちそうな仕草。

「――どうですかっ!?」

そのまま曲が終わったので、ハッと現実に戻されたような気分になった。どうですかと言われても、「すげえ…」としか言えない。
あれだけ世界観を作り出していて、急に素に戻ったような雰囲気。
そういうところに人は引き付けられるんだろうな、と思う。

楽しそうなMC、紹介されるサポートメンバー。

「今回のバンドマスター、西川ノブユキさん!」
「ベース、普段はとけた電球というバンドでも活躍しているよこやまこうだいさん!」
「ドラム、先ほども見て戴いた通り、パワーが大爆発!その名も奥村大爆発さん!」
「そして、私も大大大好きな、コーラス、楠美月さん!」
「そしてキーボード、皆の兄貴、ベントラーカオルさん!」

各々の特性を活かした自己紹介と、垣間見える関係性。
とりあえず湯木さんが美月さんを大好きなことは伝わった。眩しい。

メンバー紹介をしていく姿が本当に楽しそうで、見ているこちらも楽しくなってくる。

続いての『Answer』では異例なことが起こった。
この曲が、「何が起こっているのだ…?」となった一曲目。
ダンサーの方が二人登場し、MVのように踊る。
これがきっと湯木さんが去年やりたかったことなんだろうな、と思うと釘付けになる。
左右対称な部分と、左右非対称の部分。
湯木さんならそういうところまで何か意味を持たせていそうだな、と思いながら、次の曲は『スモーク』。

『急いでかき集めた能力は、ちっとも僕の、力ではなくて』
『急いでかき集めた思い出は、本当かどうか、分からなくて』

この曲には、全体的に曖昧な世界が描かれている。
空を掴むような、それこそ煙のような。

『曖昧で良いだなんて思ってないけど手も足も出ないから分からなくなるの』
『正しさなんて誰にも分からないから』

再び、お腹に手を当てるような仕草。
自らに言い聞かせるような歌い方は、曖昧な物から何かを掴み取ったような歌い方に変わる。
後から本人も言っていたが、これはこの後の発表の伏線だったのだろう。

続いての曲、『網状脈』は、コーラスが楽しいことになっていた。
『真ん中通る強い意志が、枝分かれする幾つもの選択が、』
そういうばこの曲にも『選択』があるな…と思いつつ、楽しみにするのはサビのワンフレーズ。

『張り巡らされた大動脈 動き続けては○○年』

○○の所には湯木慧の現在の年齢が入る…つまり、誕生日ライブでは毎回新歌詞が披露されるということ。
…なのだが、今回、この歌詞が飛んだ。
あれ、こっちがタイミング間違えたかな?と思ったが、どうやらそうではなかったらしい。
楠美月とベントラーカオルが笑っている。
奥村大爆発が大爆発している。
歌詞が少し巻き戻って、このフレーズになる。
アドリブだ…このようなパフォーマンス見せられたらこちらも笑うしかない。素敵なチームワークである。
湯木さんも楽しそうだ。

『張り巡らされた大動脈 動き続けては23年』

湯木さんと一緒に育っていく曲。
ファン歴短くても感慨深いのだから、ずっと追いかけて来ている方々の感慨深さは計り知れない。
そのままの調子でのMC。ただ、内容の方は中々重く。
「声は出せないけど、手なら、手なら饒舌で良いんじゃないかなって」
拍手喝采というタイトルの意味。
去年から今年にかけての話と、頭から飛びかけていた重大発表のことも少し匂わせつつ、

「…次の曲は、植物と、星が出てくる曲です」

そんな曲あったっけ…?と思っていると、ポコポコとしたイントロが聞こえてきて分かった。
アルストロメリア』だ。

『遠くまで、遠くまで、咲き誇る未来が欲しいなら』
『目の前の星のように今を生きて燃え続けるだけ』

湯木さんの曲は、命を燃やす曲や命の輝きを描いた曲が多い。
本人も命を削っているように思えるから心配にもなる。
そんな思いをよそに、湯木さんは空を指差したり、手話のような手振りを見せたり。
今回は本当に手が饒舌なんだな…と興味深く思う。

再びダンサーの皆さまが現れて、『ハートレス』。
『身勝手な言葉で歌うよ』
と宣言してから始まるこの曲を聞けるとは思っておらず、その時点でおお、となった。
スタンドマイクで歌う湯木慧の後ろから伸びる複数の手。
千手観音だ…照明も相まって、思わず拝みそうになった。格好良いじゃ足りない。

バンドメンバーとダンサーの皆さまがはけていき、椅子が運び込まれて来て、その上に胡座をかく湯木さん。
こうなると、次は弾き語りのコーナーだな、と分かる。

「人生は選択の連続で出来ていると思っていて」
「どんなことも、自分で選んだからこういうことになったんだなって」
「次の曲は、そんな曲です」

そんな曲、『選択』。
去年聞いたときとはまた違う印象を受ける弾き語り。
自分が選んだ道、自分自身の選択。
自分で選べなくなったら、終わり。
聞いていると自分を顧みてしまう。
ちゃんと自分で選択できているか?

考えがまとまらないうちに曲は終わり、またもMC。
メジャーデビュー日やライブを誕生日に設定していると、関係者やファンの方々からお祝いを忘れずに貰える。
…んだけど、これ、よくよく考えると、誕生日めちゃくちゃ祝ってもらいたい人に見えるのでは!?
なんて危惧する湯木さんの姿にふふっとなりつつ、続いての曲は、その名も『バースデイ』。

誰かの誕生日は、誰かの命日でもある。
生まれてから死ぬまで、どう生きていくのか。
重いテーマを、大切にするように歌う湯木慧。
『正しさだけが溢れる世界じゃないから』
『僕は真っ直ぐ真っ直ぐ前を向いてゆくよ』
ストレートにそう言われると、胸にズシンとくる。
湯木慧の身体が揺れると、椅子の下のスカートの裾も揺れる。
なんだか羽衣みたいだな…と曲に関係ないことを思う。
一緒に脳が揺れるような気分になったところで、椅子が片付けられ、バンドメンバーが戻ってくる。

照明が真っ赤に染まり、『金魚』。
バンマスアレンジのアレンジが半端なさすぎて、何度も曲の内容を疑った。
これがあの『金魚』…!?
『真っ赤な僕の鱗はゆっくり空に弾けた』
『真っ赤な僕の鱗はゆっくり海に溶けた』
いやいや格好良すぎないか…!?
…さっきから格好いいしか言ってない。語彙力が迷子。
「なにを見させられているのだ…?」の2曲目はここだった。
凄すぎて思わず立ち上がりたくなったが、なんか気恥ずかしくてやめてしまった。真っ赤なのは私の顔か。

「なにを…?」の3曲目はすぐに来た。
『金魚』の余韻も冷めないうちに、照明が山の姿を映し出し、『追憶』。
空の車椅子を持ったダンサーがやって来る。
はい…?と思ったのも束の間、湯木さんが車椅子に乗って運ばれていく。
『朽ちる定めとして今を生きてくだけ』
『朽ちる定めとして記憶を受け継いでいくだけ』
誰しもにやって来る老いと衰え。
それを示すかのような姿には息を呑むしかない。

穏やかながら不穏な『追憶』が終わると、次は、コロナ禍だから出来た曲だと云う、『火傷』。

ニュース速報のようなアナウンスが大量に流れ、会場が真っ赤に染まる。
自らをも燃やすような、狂気の炎。
これは、ネットの炎上でも、物理的な炎上でもある気がする。
老いて、朽ちた命を、自ら燃やし尽くしている。
先ほどの『追憶』の示唆が効いてくる。
燃え尽きて真っ黒焦げになったところで、上から黒い服が降りてくる。
…いや実際はスタッフさんが着せているのが見えてしまったから、ここだけは真っ暗にしてくれ…と少し思った。

『今立ち上がる為の音楽(ひかり)持ってさ 僕は今歌う』

これは…生まれ直したのか。
決意を新たに、『一匹狼』として。
そこからの『一期一会』は、歌詞に頭を叩かれた気分になった。
ステージ上の全員が楽しそうで、声の重なりが、動作が、
全てが格好良すぎて、何も言えなくなる。
声を上げられないライブとしては正解だが。
手なら饒舌に出来るので、もう最大限に拍手を送った。
しかしまだ終わりではない。

少し落ち着いたところで、湯木さんが合図をする。
「皆さん、手元に紙はありますか?」
…すっかり忘れていた。

スマートフォンを取り出した段階で、この後どういうことが起こるかを少し予想した。

1.QRコードを読み込むと、画面がカラフルになり、ペンライトとして使うことが出来る
2.QRコードを読み込むとリクエストフォームが出て、一斉にリクエストを送信する。即時集計で、一番リクエストの多い曲を歌う

…1はないな、と思いつつ、紙の上のQRコードを読み込む。

青い画面の端に、再生マークが出ている。

「音を出して見ていいですよ」

…頭の中に?マークが浮かぶが、音量を上げて、画面をタップ。


…はい?と声が出そうになった。
顔を上げると、ステージ上の湯木さんと目が合った(気がした)。

「――えー、湯木慧、ビクターエンタテインメントを独立し、新レーベル、TANEtoNE(たねとーん)を設立します!!」

諸々あって、メジャーを離れることを決めて、LD&Kレーベルに戻ることも考えたが、どうせなら、新しく始めようと。

「今、すっごくワクワクしてて!」

湯木さんの目は希望に満ち溢れていて、全てが吹っ切れたような顔をしていた。
イントロが鳴り、照明が金色に輝く。
今日最後の曲は、『ありがとうございました』。

終わりは、また新たな始まり。

誰も予想だにしなかったその展開。
湯木さんの言葉によると、コロナ禍が原因じゃないし、誰のせいでもないという。
いずれが少し早くなっただけなんだな、と深く頷いて、また最大限の拍手で送った。
後で見たら掌が内出血していた。叩きすぎだ。

TANEtoNE…種とトーンを合わせた造語か…面白いな、と思っていたんですが、考察班の皆さまによると色々な意味合いがありそうな感じらしく、凄いな…と驚くばかり。

夏頃の新曲と一緒にどんな情報が出てくるか、今から楽しみだな、と思いながら会場を出ると、後方から「コーラスの人がカッコ良かった」「いやドラムが強い」などと熱く語っているのが聞こえた。
全員格好良かったから仕方ないな…と内心頷きながら、今度はしっかり道を選んで、出口を間違えないように帰路についた。