圧倒的に走ってく

基本的には行ってきたライブのこと。たまにCDと本と諸々の話。

ああ、もう、こんな時間だ。

ああ、もう こんな時間だ。@下北沢DY CUBE。

moucaさんの、moucaとして最初で最後のワンマンライブ。
終わりから、また始まりへ。
決意を強く感じたライブで、心からこの場に立ち会えて良かったな、と思えた、演劇のようなライブでした。

いつもより記憶が曖昧なので、台詞は感じ取った雰囲気になっています。

待機時間

最初で最後のワンマンライブ、と聞いた時にはすごく驚いた。
ただし、音楽を辞めるわけではない。
同時にそう聞いたから、安心して聞けたというだけのことで。

会場はDY CUBE。
なるほど、そう来たか…と思ったのは、そのライブハウスにある背景から。
もうよく慣れた、つもりだけど妙に緊張感のある場所。
入場を待機している間に、ハンバーグ屋さんの行列と思われるのもいつも通り。
しかし、待っている内に、明確に違いを感じた。
…いつもと客層がだいぶ違う。
moucaさんのライブ、というと、なんと言って良いのか分からないが、同じような雰囲気の人が多い印象だった。
しかし今回は、いつもより格段に客層が広い…具体的に言うなら、普段はライブにはあまり来ないような層、
というと語弊があるが、他のアーティストのライブでもあまり見かけないような層が多いような気がしたのだ。
おそらくは、moucaさんが流しで歌い始めた事で、ファン層が広がったのだと思う。
ぎゃ、逆にこちらの存在が場違いでは…!? と思っていると開場時間となり、飛び込んできた光景に目を奪われる事になった。

会場からして綺麗で、一気にその世界に入り込む。
客層の違いなどに怯んでいる場合ではない。
ここは、これから向かう先が見える場所でもある。
やっとステージに集中し始めた所で、

開演時間

いつもの青い衣装のmoucaさんがやって来る。カホンのらっきょさんと共に。
「こんばんは、moucaと申します」
から始まるMCも、これで聞き納め。

白い壁にカーテンのイラストが映し出されて、1曲目。
『センチメンタルブルー』
moucaさん本人も、ファンも認める、moucaの代表曲。
儚くも色濃い青色の世界。
闇の中から手を伸ばすような歌声が、ブレスが、突き刺さる。
自然に泣いてしまって、そこからボッロボロになってしまった。

聴いていて辛くなるような朗読と、その言葉を昇華させたような歌。
全てが独特で、とか一言では片付けられないぐらいに強い個性。

『おやすみクリームソーダの優しい音色と、『ダラダラクの…二人で一緒にダメになろうか感。
『亡い春を待つ』は、水色の花弁が散っていくような光景が頭に浮かぶ。

白い壁の上に映し出されたカーテンが揺れる。

『AM4:00』
世界におやすみと言えない夜。
死にたい、と、生きたい、の狭間の時間。
幸せになってしまったら、死にたい、と思わなくなってしまったら、作る事が出来なくなるんじゃないか。
心がぐちゃぐちゃな真夜中。
『愛を知らない』、という彼女は、ぐちゃぐちゃと言葉を紡ぐ。
『よるの魔物』に呑まれないように。
分かり合えない、壊れてしまいそうな時間を、それでも――美しい夜だと、言えるように。

休憩時間

すっかり息を呑んでばかりで、気がつくと休憩時間だった。
青色に満たされた空間には、風が吹くような、深海のような、不思議な色味を感じる音が流れている。
後から言っていたが、らっきょさんが作ったBGMらしい。
白い壁の上のカーテンも相も変わらず揺れている。
会場が少しざわざわし始めた頃、

逢魔ヶ時

再びの静寂。
moucaさんは先ほどとは違う衣装になっていて、ギターも別の物。
活動を休止した友人から借りていたギターを返して、自分のギターを持った。
そして新しい衣装は、後からフードのようになっている事が分かったが、羽根が生えているように見えた。

夏を思わせる青い曲が続いて、少し緊張が解けた。
が――
青かった会場が紅く染まり、特徴的な高い声は鳴りを潜め――地の底からのような低い声が響く。
『たとえ地獄だろうと』
ミラーボールが光る。低い声に息を呑む。
真っ赤な会場で、感情が吐き出されてゆく。
高い声と低い声で行ったり来たり。

…まるで、地上と地獄を行き来するかのように。

もう幸せになれなくても良い。全てが壊れてしまっても良い。姿を表に晒したくない。
そんな言葉すら見える音に、『声にならないよ』うな感情に。
月並みな表現になってしまうけど、息を呑むしか出来なかった。

黄昏時

しかし、音楽を続ける内に、その心は変わっていったという。
創り続けること、音楽を続けること。
それ自体が、幸せなんじゃないのか。
そう思うようになった。
青い花に水を』与えるように、幸せな日々でも良い。創り続けたいし、音楽を続けたい。
とはいえ、姿を晒したくないのは変わらない。
だったら、一度まっさらにしてやり直す。
姿を隠して、名前を変えて。
一度透明になって、また別の『青』に。

新しい名前は――

ああ、もう、こんな時間だ。

その名前は、紐づけないで欲しいという意思を尊重して、ここには書かない。
理由も言っていたが、ここに来ていた人の中だけに留めておく。
…とはいえ、これからもライブには行くし、この記事にも名前のヒントらしきものは散りばめてあるし、なんなら今後の私のツイートに唐突に知らない名前が増えだすからそう遠くない内にバレると思うが、そうだとしても。

代表曲の『センチメンタルブルー』から始まって、最後に、mouca、という名前の由来となった言葉を歌って、終わっていく物語。
moucaと名乗った最初の場所が天窓で、最後の場所がDY CUBE。
名前は変わったけど、本質は変わらないその場所を最後に選んだのも、運命と云うべきか。
ハコは人が作るし、人は、ハコが作る。
名前を変えたmoucaさんが、一体これからどんな姿になっていくのか…まったく予想できないけど、でも本質は変わらずに、青色であり続けるんだろうな…と思う。
どんな事があっても、根っこにあるものは変わらずに、歌い続けてくれる。創り続けてくれる。そう思えるアーティストがまた増えた。

私がmoucaさんを知ったのは2021年。活動5年の内の、3年間。美しい、だけじゃない夜を何度も見せて貰った。
区切りの度に訪れたくなるのは、その歌う姿、創る物、音、空気感、言葉が、突き刺さって仕方がないから。
弱いままでも、暗いままでも、もちろん、強くなっても、幸せになったとしても、突き進むその姿を見届けたいから。

そんな感じの事を、物販の時に全く伝えきれなかったので、ここに書く。


moucaさん、そして、◯◯さんの新しい日々が、音が、時間が、色を成しますように。

『ああ、もう こんな時間だ。』