圧倒的に走ってく

基本的には行ってきたライブのこと。たまにCDと本と諸々の話。

いざなわれるは深海より深い場所

深海の楽園@水道橋Words。
以前から行ってみたかった、夏未さんのワンマンライブ。
深海のような、深い森のような、一度入ったら抜け出せない場所に入り込んでしまったような空間でした。
MCが入ったタイミングがあやふやなので、順番が前後している可能性があります。

深い場所へ

その地に降り立った瞬間、遠くに観覧車が見えた。
後楽園がある水道橋。
こんな所にライブハウスがあるんだろうか…そんなことを思いながら、信号を渡り、路地へ。

あった。

路地に入ってすぐに看板が見えた。ここが水道橋Words…こんな所にあるのか……既に出来ていた入場待機列の最後列に並ぶ。
列の様子を見て、今日は女性ファンが多いな、と思った。
夏未さんのワンマンに行くのは初めてなので、いつもこんな感じなのかもしれないが。
チケットの確認をしていると開場時間になり、階段に沿って降りていく。

白い階段から、青い雰囲気がある空間へ。海の中に沈んで行っているみたいだな、そんな事をぼんやりと思いながら、受付。
受付時にハガキのような物を渡された。何だろう、と思いつつも後ろが詰まってるので鞄に入れる。
受付のすぐ横に物販スペースがあり、受付が終わり次第事前物販にすぐ行ける造り。終演後のバタバタを避ける為らしいが、これだと物販に寄りやすくて良いな…と思いながら、会場内へ。
ライブフロアは黒を基調とした色味だった。
白、青と来て、黒…いよいよ深海みたいだな、と思いながら席を選ぶ。
この席ならキーボードがよく見えそうだ。
そこまで苦労せず席を選べたので、案の定手持ち無沙汰。
さっき貰ったハガキの内容を見る。QRコード。読み取れという事か。
スマホを準備していると、会場BGMが耳に届く。これは、夏未さんの曲のインストバージョン…!
雰囲気作りが素敵過ぎる。後から言っていたが、インストアレンジまで自分でやったそうだ。徹底している……
会場BGMに浸っていると、何処からかクトゥルフ神話の話をしているのまで聞こえた。
…深海だから? よく分からないがSAN値が足りてるかどうか考えてしまった。
まあ気にしないこととして。QRコードを読み込むと、質問フォームが現れる。どうやらMCコーナーに使うらしい…じゃあ無難な質問が良いかな、といくつか考えて送った。
何処からか聞こえるクトゥルフ神話の話は更にディープになっていた。SAN値直葬。ようこそ、深淵へ。

どんどん深い場所へ

丁度会場が暗くなり、夏未さんが現れる。
クラゲか魚の鱗を思わせる、青いふわふわした衣裳。
ゆらゆらと揺れながら奏でられたのは、イトデンワの『東京』。
『東京の明かりに溶け沈み、息を潜めて聞いてみた』
『感情の入り組んだ交差点 ここにはない後姿を探す』
一曲目からこの曲が来るのか…イトデンワ時代の話はあまり詳しくないのだが、思わず背筋が伸びた。
無いはずの記憶が、呼び覚まされるような。
息を呑むばかりの音と、波紋が伝わっていくような歌声。
その世界に浸り始めたところで、今回のライブの説明に。

今回は二部制のライブで、第一部の最後にMCコーナー、休憩を挟んで第二部。
「私のワンマンって、いつも凄い空気になっちゃうから、もう少し気楽に」
「……もし、途中で眠っちゃっても、『しまった!』とか思わなくて良いからね。何も言わないから大丈夫」
いやいやそんな…と思うものの、確かに夏未さんの歌は微睡みを誘う、というか、水の中を漂っているような気分になり、気が付いたら眠りの世界にいざなわれている曲が多い。
本人から「眠っても良い」とあらかじめ言われていると、確かに気楽に見られるかもしれない。
とはいえ、寝ている場合では無かった。特に、この後は。

辿り着くは人魚の棲み踊り狂う地

夏未さんが目を伏せ、特徴的なイントロが奏でられる。
照明が青になっていき、浅瀬からどんどん沖に連れていかれるような気分になる。
『人魚姫』から、『珊瑚礁』。
悪戯な人魚に攫われて、海の底に幽閉されて。
何処までも深い場所へいざなうピアノの音。
『深海』まで連れていかれて、その伸びやかな声にさらに囚われる。
『最後の我儘』
『この手を連れ出して』
『息を止めぬ私の首筋』
『朝が迎えに来たのか、それとも』

そんな折に、夏未さんが笑顔を見せる。
……いかん、この場の全員、夏未さんに心を攫われてしまう……!

有り得ない『夏』に囚われて、抜け出せなくなる。
夜の高速道路に繰り出して、『ミッドナイト・ハイウェイ』で世界の終わりに思いを馳せてしまう。
優しくも力強い音と、その歌声。明けていく夜の中、辿り着いたユートピアで、命が溶けるまで踊り続けてしまう……

最後にもう一度笑顔を見せて、早くも第一部最後の曲に。
何を歌うか悩んだ、というその曲は、WALTZMOREの『水際の花』。

『目を覚ました 天井のない部屋』
『冷たい風に揺れる水際の花』

『僕は僕の自由を抱いて旅をするよ』

『ミッドナイト・ハイウェイ』とも繋がる歌詞。
…辿り着いたユートピア、というのは、…

そんな事をぼんやり考えている内に、夏未さんが最後の一音を叩いた。

息抜きMCコーナー

夏未さんがまた笑い、張り詰めた空気が一気に柔らかくなった。
ここからはMCコーナー。
寄せられた質問の中で、夏未さんが気になったものに答えていく。
全部書くと結構長くなるので、ここにはその中で印象に残ったものだけ書いていく。

Q:影響を受けた音楽、小説などはありますか?

「クラシックはよく聴いています」

なるほど…クラシック…(曲の雰囲気を思い出しつつ)

Q:夢はありますか?

「夢…オーケストラと一緒にライブをしてみたいなと」
(会場、拍手)
(開催されたら)「…絶対来てね?」

絶対行きます。

Q:夏未さんが結婚して、WALTZMOREの中にショックを受けていたメンバーはいませんでしたか?


(少し笑って)「いないよ!!」
「皆祝福してくれてたよ!!!!」

夏未さん、ご結婚おめでとうございます!!(今言う)

一番下の質問に関しては、本人、会場共に一番盛り上がっていたし、この質問に答えてくれているのを見て、無難な質問じゃなくてもっと踏み込んだ質問をしても良かったんだな、と思った。
和やかな雰囲気と、ユーモアのある回答。
こういう趣は楽しいし、人柄が見えるようで、なんだか不思議と優しい気持ちになる。
今度MCコーナーがあるなら曲について訊いてみたい、というか訊いてみれば良かったな…と。

そして深淵へ

休憩時間を経て、また会場が暗くなる。
暗闇から現れた夏未さんは、今度は黒い衣装になっていた。
息を大きく吸って、第一音。
『旅人へ』。
この曲は、勇敢な旅人に優しく声を掛け、また送り出す曲。
『僕は君の味方だ』
そう言われると、心の氷が溶けるような感覚になる。
続いて、秘密の二人の、秘密の恋のうた、『A.guitar』。
可愛い響きのする歌なのだが、『秘密の二人』…一体どういう関係性なのか。考え出すと少し気になる。
そんな流れで、『本当は』。
白と黒が交互に出てくるような曲で、やはり考えさせられてしまう。
…「私のワンマンはいつも凄い空気になってしまう」…MCコーナーの和やかさで忘れていたが、この流れで思い出さざるを得なかった。
…衣装に合わせた黒い世界。それを決定的にしたのは、次の曲の流れだった。
新曲、『黒い森』と、『Hope』。
深い森の奥に連れていかれて、それでもまだ深く深く潜っていく。
深い場所から呼び戻されるようなイントロの『地球儀』。呼び戻されてから突き落とされての、『夢追いびと』…

『死ねよ、裏切り者』
『そう言われた夜も生きてきた』

…この人は、一体どんな感情を乗り越えて来ているのだろう。
少し希望が見えた所で、またどん底に落ちていく。
そんな夜をどれだけ越えてきたのだろう。

泣きそうになっていると、最後の二曲で浄化される。
『花束』と『優しいひと』…
辿り着いた場所は、暗闇ではあるけど、美しく、尊いユートピアはここにあったのか…

そして浮上する

最後の、と言っていたが、まだまだ聞きたかった。
全力で手を叩くと、すぐに現れる夏未さん。
皆でやってみたい事がある、という提案でやる事になったのは、『darling』のコーラスパート。
ただでさえ高い音が多い曲の、めちゃくちゃ高い箇所…

「次、転調します」

優しくスパルタなボイストレーナー・夏未さん。
…今日高い声が出る人が多い日で良かった。本当に良かった。

ふふふ、と和やかな空気のまま、最後の曲。
イントロで分かる、包み込むようなその歌。
『freesia』。
様々な事があっても、歌い続ける事の決意。
あまりにも眩しい光景に、安堵感すら覚えた。
きっとどんなことになっても歌い続けてくれるんだろうな、それこそオーケストラと一緒でも。

完全に浮上した気分のまま、物販で夏未さんと話す事になり、かなりふわふわした感想になっていたと思う。
何言ったか覚えていない。感想、になっていれば良いけれど。

Wordsから出てしばらく、現実感が無かった。
遠くに見える観覧車で、逆に現実だと気付くほどに。
たまにはいいか、足元がふわふわしていても。
『ミッドナイト・ハイウェイ』ばりの大通りを渡って、また次の場所へ。


手描きのセットリストポストカード。
嬉しいけど、手が心配になったりもする。