圧倒的に走ってく

基本的には行ってきたライブのこと。たまにCDと本と諸々の話。

夢のように(時間が)溶けた

アイスクリームの日@EX THEATRE ROPPONGI。
泡沫の夢…というのが相応しいライブでした。

5月9日。世間的にはアイスクリームの日に制定されている日らしい。
そんな日に、吉澤嘉代子が「アイスクリームの日」と銘打たれたライブを行う。
諸事情で野音に行けなかった私からすれば2年ぶりの吉澤嘉代子のワンマンだ。どんな世界が見られるのだろう、と意気揚々とライブ会場へ。


入って早々、不思議なフライヤーが配られた。
女性の顔が二つ、絶妙な距離感で並んでいる。

…ちょっと形容が難しいぐらい絶妙な距離感で。

顔に挟まれるように、お洒落なフォントで ICE CREAM FEVER、と書いてある。どうやらこれがタイトルらしい。
アイスクリームフィーバー、アイスクリーム熱。そしてこの絶妙な距離感の女性二人…
…よく分からないが穏やかじゃなさそうだ。

EX THEATRE内にもこのフライヤーが沢山貼ってあり、大変異様な空間になっていた。
それこそ熱っぽい…というか、若干見ていられないようなぐらいに。

フライヤーの裏側には出演者と主題歌が書いてある。
主題歌は吉澤嘉代子の『氷菓子』。
そして今日はアイスクリームの日…

開演時間。

吉澤嘉代子のライブといえば、楽曲の世界に深く切り込んだストーリー仕立てのライブ…という印象が強くある。
しかし今回はストーリー仕立てではなく、MC無しでどんどん楽曲を繋げていくストロングスタイルだった。
もちろん今までにもストーリー仕立てじゃ無かったライブはいくつもあった。
あったものの…このタイトルと世界観で、ストーリーが無いのはとても意外だった。

しいて言えば最初に童謡の『アイスクリームのうた』を歌っていたのがアイスクリーム要素だとは思うのだが…白混じりの水色のワンピースでくるくる回る吉澤嘉代子は確かにアイスクリーム感(?)があったけども。
どうにかなっちゃいそうなぐらいのレトロ感全開で、一瞬で恋に落ちてしまいそうなぐらいに。

それ以降はあまり記憶に残っていない。
久々の吉澤嘉代子のライブ!という高揚感だけはずっとあったのだが。
『地獄タクシー』の運転手が伊澤一葉さんだったのは覚えている。
効きすぎているアレンジ。
妖艶さと闇を含んだ吉澤嘉代子の歌声も相俟って、どんどん地獄という名の深みに嵌っていく。

そして、友人に宛てられた曲だという『すずらん』。
更に、ある人に宛てられた曲、『ミューズ』。
「やっと聞いて貰えます…」
という言葉を言っていたので、どうやらその人が会場に来ているらしい。
…というか『ミューズ』の宛先は知っている。
配られたフライヤーに映っている、あの横顔の一人――

あっという間にアンコールの時間となり、勿論手を叩き続ける。
会場が少し明るく…ならず、代わりにスクリーンが降りてくる。

フライヤーの二人が映し出され、やはり距離は異様に近く…アイスクリームを作っているらしい。
…というのは分かったのだが、目まぐるしくシーンが移る。
個性的な面々。
近付く二人。
距離がゼロになりかけた所で、綺麗な音が聴こえた。
スクリーンが上がり、『百』と『愛』のネオンで彩られた楽器が見える。

『口づけだけで僕を閉じ込めて』
『どんなに優しい嘘でも』

『僕は魔法使いなんかじゃない』

『百万年君を愛す』

大きな身振り手振り。所々歌詞が聞こえたり聞こえなかったり。
それでも分かったのは、これが恋愛の曲であること。
映像と曲を照らし合わせると、どうやら女性同士の恋愛物らしい。

ライブで女性同士の恋愛物は今までに 二つ観たことがあるが、なるほど…
しかもそれが吉澤嘉代子主題歌で、それも、僕は魔法使いじゃないなんて言葉さえあって。
そして、曲の内容を聞くに、この二人の行く末は……

気が付くと終わっていて、ハッとした。
あの吉澤嘉代子のライブに集中できていなかった。不覚だが、それぐらい曲と映像の印象が強烈だった、ということ。

このライブ全部が、この曲と、この映画の為に設けられた場だったんだな、
帰り際フライヤーを眺めながら、そんなことを思った。

目まぐるしさとまばゆさと眩しさに頭がボーっとして、帰って来られなくなりそうな気がする。
この映画を観に行くかどうかはまだ決められていない。