圧倒的に走ってく

基本的には行ってきたライブのこと。たまにCDと本と諸々の話。

吉澤嘉代子の発表会

2018年6月16、17日。
国際フォーラムホールC。
吉澤嘉代子のコンサートに行くのは今回が初めて。

まず驚いたのはこのコンサート、
『物語仕立て』だということ。
好きな曲を生で聴けるだけでも行って良かったと思えるのに、それに見合った『物語』まで用意されていた。
元々ストーリー性が強い曲が多い方ですが、コンサートではそれを、「もう一歩」進めた話になっているという仕掛けです。

なお、帰り際に本人が「ネタバレお願いしますね!」(※意訳)とおっしゃっていたので、今回は記憶を頼りに一人称視点で書き起こし+感想・考察という形式になっています。

(※自己要約&解釈のため、実際の内容とは多少の差違があります)

吉澤嘉代子の発表会~子供編~


未成年の主張←「あなたが好きです!」と絶叫してスタート

わたし、吉澤嘉代子、ちょこっと古めかしい名前だけど、「13歳」!
小さい頃から魔女修行を続けて、ついに愛犬のウィンディとお話ができるようになったの!

今はね、大人になったわたしが、キャパシティ1500人ぐらいのステージでみんなに向かって話しているって設定の、発表会"ごっこ"をしているの!

実はね、ウィンディ。わたし、いま、好きなひとがいるんだ!
え、誰かって?ええっとねえ……
あ、そうだ!わたし、部活に行かないといけないんだ!

『恋愛倶楽部』←意中の男子に告白されて、逆に冷めてしまう残酷な歌。
じゃあ、この子が、本当に好きなのは……?

ふふ、楽しかった!
え、なあに、ウィンディ。
顔に締まりがない?浮き足立ってる?
仕方ないじゃない!
だって……

『美少女』←恋がしたい、美少女になれたなら
チョベリグ←好きなひとの周りを側転(したい気分)
『らりるれりん』←片想いしているひとからの電話を楽しそうに待っている

そうそう、お話が途中だったね。
ウィンディには教えてあげる。
そのひとは、よく、体育館裏でたむろしてて、すっごくすっごくかっこいいんだよ!
真面目ちゃんはもう卒業、これからは、わたし……
(スチャっとサングラス着用)

『ブルーベリーシガレット』←タバコをふかす真似っこをして、相手を振り向かせたい歌

そういうことだから、夜露死苦ゥ!
え、影響されすぎ?
いいでしょ、別に。
だって、わたし……

『ひゅー』←ひゅーひゅーひゅーとはやし立てられ盛り上がる恋心
『ユキカ』←全身全霊で「あなたが好き!」

(学校で噂になり始める)

「ねえ、吉澤さんは……好きな人、いるの?」
「いるよー」
「ええっだれ?だれ?」

(笑顔で)

「×××さん」

(ざわめく教室)

「え、×××さん?」
「うん!」

(さらにざわめく教室)

「え、どうして?」
「確かにあのひと、よくたむろしてて、ちょっと怖くも見えるけど……」

(笑い声)

「だってその人」
「女の子じゃない」

ざわ、ざわ、ざわ、ざわ……

「どうして?」
「おかしい?」
「好きになったひとが、たまたま女の子だっただけだよ」

ざわ、ざわ、ざわ、ざわ……

ざわ、ざわ、ざわ、ざわ……

『うそつき』

『心にうそをついたなら』
『心はぎゅんとふるえて泣くでしょう』――

『許されないなら、いっそ、あなたの恋人に抱かれたいと思った』
『それでもいいからあなたが……』

(そうして、噂は広がり……)

『なかよしグルーヴ』

ざわ、ざわ、ざわ、ざわ……

「油断の出来ないお友達」
「友達じゃない"おともだち"」

ざわ、ざわ、ざわ、ざわ……

(頭を抱えて倒れ込み、場内が真っ暗に)

……ウィンディ……わたし……

……家出する。

…………さよなら。

<ステージから姿を消す嘉代子>

『逃飛行少女』←心通わぬ目の尖ったクラスメイト
噂好きの輩にも、うんざり

『えらばれし子供たちの密話』←どこかで会う約束をしたらしいが……

<けれど、嘉代子はステージに戻ってくる>

ただいま……ウィンディ。
家出……できなくなっちゃった。

ウィンディ……わたし……
……わからなく……なっちゃった。
そう、ぜんぶ、ぜんぶ……

『キルキルキルミ』自傷・怒り
『ひょうひょう』←窓から逃げようとするけど、出来なかった

(気持ちに蓋をする)

『ラブラブ』←言い聞かせるように、好きだと言い続ける。
ハートの"シャボン"が吹き荒れる(砕け散る)。

ねえ……ウィンディ。
わたしがおとなになっても……ウィンディは、そばにいてくれる?
……お願いがあるの。
おとなになったわたしに……お手紙を渡して欲しいんだ。
ねえ、お願いだよ。ウィンディ……

「いつまでも、消えない、光はないという」
「おさない、昔に、知っていた、まなざしも」――

『movie』
『泣き虫ジュゴン

わたしが生まれて初めて愛したひとは、
家族や恋人ではなく、『あなた』でした――

『雪』

ありがとう、でも、迎えは、いらない。おさない夢を引き連れて、会いに行こう――

[子供編 ―おわり― ~大人編につづく~ ]

というわけで、ここまでが、子供編。
全体を更に要約しますと、
ヤンキーの先輩(同性)に恋をして、本気でそのひとを好きになってしまって、
周囲から揶揄され嫌になり、一緒に逃飛行(家出)を画策するも、失敗。
初めて覚えた感情を、幼さ故の過ちだと蓋をして、先輩の背中を見送る。
子供の純粋さ故の残酷さ、子供から大人になろうとする女の子の葛藤、
そして、子供の自分との決別。
そうして、彼女は大人になった(であろう)自分に手紙を託す。

なんというか、そのー……

ヘビーです。

好きなひとがいることを冒頭から明かした上で、
『恋愛倶楽部』『ブルーベリーシガレット』でミスリードを誘い、
そこからの学校の場面。
『うそつき』の歌詞が胸に突き刺さって喉元から背中まで引き裂かれそうになる。
「好きになったひとがたまたま女の子だっただけだよ」
コンサートでまさかこんな台詞を聞くことになろうとは。
そしてそこからの『なかよしグルーヴ』『逃飛行少女』の流れ。
噛み締めるようなアコースティックバージョンの『ラブラブ』
そして、決意と決別の歌、『movie』『泣き虫ジュゴンの海の底に連れて行かれたような演出。
そのあとの、語りかけるような、『雪』と、この上なくやさしい、『ひゅるリメンバー』
心臓がバクバクして、ステージに釘付け。
予想もつかなかった9曲目からのその展開。
しかし、しっかり伏線はある。
『美少女』の『恋がしたい、人の道外れてしまうような』という歌詞。
相手は終始「あなた」「×××さん」と呼ばれていますし、
チョベリグの歌詞では『きゃわいいあの子』ですから。
発表会・子供編なんて可愛らしい名前でこれやられたら、いろんな人がびっくりする。
というよりびっくりしました。色々と。
このような台本を、自分で書いて、自分で演じて、自分で歌ってしまう嘉代子さん……

大人編も見るしかない。

大人編

『綺麗』←私たち、もういい大人なのに……

子供のわたしと折り合いをつけて大人になった、私、吉澤嘉代子(28歳)は、発表会ごっこではなく、本当に発表会を開くことになりました。

『ねえ中学生』←中学生時代を懐かしむ歌

さあて、おしごとおしごと。
月曜日。気合い入れてかないとね。

……あれ、私の脇の毛……ちょっと伸びてる……

……毛、け、ケ?

(ひゅるるるるるるる……)

『ケケケ』
『月曜日戦争』

――……はっ!?
いけないいけない。私ったら、すぐ、妄想の世界に……

大人になったんだから、妄想ばっかりしてないで、
やっぱり……いろいろな、恋、したいな。

『手品』←悪い男に騙され、失恋(殺害までほのめかす)
『化粧落とし』←手酷い失恋をするも、ドッキリだったらいいのに、と心の中で思う
『がらんどう』←満たされない気持ちをポストに返す
ジャイアンみたい』←しかし、別れたのは結局、自分のエゴだと知っている

(という、妄想)

……ただいま。ウィンディ。
うん? 発表会ごっこ? そんなことしていた時期もあったよね。
そう、13歳の時の私、ちょっと不安定だったから……心配させちゃってごめんね。

でも、私、本当に1500人規模の発表会開くことになって……
いろんな歌作ったな……妄想から。
市民プールの話でしょ、ストリッパーの話でしょ、それから……化け猫の話、と……

ユートピア←市民プールに妄想を浮かべる話
シーラカンス通り』←ストリッパーがお届けする一夜の御話
『ちょっとちょうだい』←化け猫がいろんなものをおねだりするお話

『麻婆』←おとぎ話。釜から龍が昇天し……

……あ、いけない。また妄想の世界にトリップしてたみたい。
今日は発表会本番。国際フォーラムに行かないと。
すみませーん。運転手さーん、国際フォーラムまで……

『はい……では、東京の、地獄行きで、よろしいですね?』
「え?」

『地獄タクシー』
『人魚』
『ぶらんこ乗り』

[意識は地獄から海、空を渡り……ウィンディのもとへ]

……あれ、ウィンディ。どうしてここに?
発表会ならちゃんと……うん、15年、色々あったからね。
ほら、髪もこんなに伸びちゃって。
え? 子供のころの、わたしからのお手紙……?
……そんなの、書いたかな?



――わたしは、いま……誰かに会いたいのに、それが誰だか、わからないのです。
けど、ほんとうは、わかっているの。
わたしは、「あなた」に会いたいのです。

『一角獣』
『ストッキング』

魔女修行を経て、きらきらした大人になった、「あなた」に――

[大人編 ―了― ]

……すみません、手紙の内容はうろ覚えです。
『一角獣』『ストッキング』の流れでどうにかなってしまいそうだったので、アンコールの手を叩くのに必死でした。
『一角獣』は過去の自分と現在の自分が邂逅する歌、『ストッキング』は13歳の自分を回想し、殻を破って外の世界に向かう歌。
発表会ごっこをしていた吉澤嘉代子(13歳)が会いたかった「あなた」とは、未来の、1500人規模のホールを本当に埋めてしまうほどの力を持った、素敵な大人になった、15年後の吉澤嘉代子
恋に破れ、誰かに話を聞いて欲しくなった「わたし」。
これから、わたしは素敵な大人になれるのかな?
教えてください、未来の「あなた」――
と葛藤する幼き日のわたしに優しく別れを告げ、「私」は更に大人になっていく。
この話、もしかしてデビュー当時から考えていたのでは…?と思わずにはいられない見事な伏線回収。
コンサート自体がストーリー仕立てなので絶対聴けない(曲中の物語性が強すぎる)と思っていた『地獄タクシー』『人魚』『ぶらんこ乗り』も生で聴けて、
と、思ったところで一つ疑問が。

この三つの曲のブロックだけ、なんだかちょっと浮いているんです。

ほかの曲ブロックは歌う前か後に「妄想の世界」と言い切っているのに、この三つの曲ブロックは、妄想だと明言されていないんです。

そうなると、この三つの曲は物語中、『実際に起こったこと』として描かれていることになります。
地獄に行き、海を渡り、空へ昇り……?
そこで出会うのは、幼い頃の手紙を託された、愛犬のウィンディ。
ここで、ウィンディに手紙が託された時の曲、『movie』のフレーズを見てみます。

『ゆるやかな地獄が日常の顔をして』
『くるんだ毛布の温もりを奪い去る』
『あなたは時計のない国へ旅に出る』

……連想される言葉は、たった一つ。

普通に考えて、15年の月日が経っているんです。
そうです、だから。
だから、空に昇る必要があったのではないでしょうか。

……考え過ぎですかね。

妄想という言葉をどこかで聞き飛ばした可能性もありますし。
ここは、時計のない国へ旅に出たウィンディ=時間の流れが止まっている ということにして、
そのままの姿で国際フォーラムにやってきた、と解釈しておきます。

……そうですよね? 嘉代子さん……?

ん、『movie』の次のフレーズ……

『帚星かかる、最初で、最期の魔法』

……。

深く考えないことにする。

ウィンディが去っていくときには涙声にも聞こえましたが。
……空耳だと思っておきます。
大人編というタイトルからは外せないという前置き付きの『残ってる』、鳥肌が立つぐらいに全身全霊の『ミューズ』、東京の綺麗なところからあまり見たくないところまで肯定してくれる『東京絶景』、ダブルアンコールの『23歳』までしっかり聴き届けて、ここで、吉澤嘉代子から重大発表が。

「わたくし、吉澤嘉代子は、この、発表会をもちまして……





コンタクトデビュー!いたしました!」

ちなみに秋頃にはアルバムも発売しますし、来年には全国ツアーもするそうです。

……どこまでも人の心を弄ぶのが巧い人です。

ともあれ、大盛況のまま大団円を迎えた発表会。
コンサートというよりは良い長編映画を見終わったあとのような気分。
個人的にも色々と心を揺さぶられた一週間で、夢だったんじゃ、と今でも思うのですが、手元にはサインもグッズもセボンスターもあります。

……ええ。セボンスターです。
本人が以前からセボンスターの大ファンで、今回、やっとコラボが実現したんだとか。
ご存知ない方はどうぞ[セボンスター]でググってみてください。
自分の心の中の子供の純粋さと、もういい大人なのになにやってんだのせめぎ合いになります。
……あ、子供編と大人編ってそういう……?
キラキラとしすぎていて一体何処に付けたらいいのやら。
ほうきのチャームが麗しいです。

なんだか一歩一歩そちら側(ほうきの会)に向かっている気がしますが……

……大丈夫です。きっと。たぶん。