圧倒的に走ってく

基本的には行ってきたライブのこと。たまにCDと本と諸々の話。

美しい逃げかた

シナリオアート四季企画 ~秋~ [Chapter #24] -二人のフーガ- @渋谷WWW。

映像×ダンス×音楽。
感情をぐちゃぐちゃにされた、かなり挑戦的なライブでした。
ライブ自体というよりは主にストーリー部分の感想と考察です。

※ストーリー部分を結末までネタバレしています
※が、相変わらず細かい言い回しはうろ覚えです



シナリオアートは初見だったが、映像とダンスと音楽を組み合わせたライブと聞いて気になり、チケットを取った。
入場時の体感として、今回は異様に女性が多かった。
男女3ピースバンド。おそらく男性が少し多いかな…? と思って来たので、この時点で少し雰囲気の違いを感じた。

THREE1989を観に来たのか…?と一瞬思ったが、それなら入り口が違う。女性ファンが多い客層なんだろう。
消毒と体温測定。階段を降りていき、カウンターでドリンクを交換。まだ缶かペットボトルらしい。この辺りの解禁具合はライブハウスによって違う。

やっとフロアに着くと、WWW名物の段差。整理番号が早かったからどこも空きがある。
しかしここで少し想定外のことが。
映像×ダンス×音楽と聞いて、真っ先に思い浮かんだのは椅子席だった。WWWに椅子を入れるとどうなるのだろう、としか考えていなかったのだが、実際は椅子は無かった。
普段のライブならスタンディングで全く問題ないのだが…映像と言われるとゆったり見たい感じがある。

…まあ気にしたところで仕方ない、と位置を決め、開演を待った。

不穏な始まり

会場が暗くなり、カーテンめいたスクリーンに映像が映し出される。女性が二人、片方の茶髪の女性はスマートフォンを耳に当てながら、なにやら険悪なムード。
声は無く、上にテロップとして会話が映し出されている。

「――なんで認めてくれないの」

と電話の先に怒る茶髪の女性…あき。
もう片方の黒髪の女性…なつみは心配そうに見守っている。
「どうしたの」、となつみが問えば、あきは「親が私達の事を認めてくれない」と嘆く。

この時点で同居している二人だから、同居を認めない、とかそういう話では無さそうだ。

電話を切ってなお怒るあきの頭を撫で、なつみは
「…いつか私達が本当の家族になれるといいね」
と言う。

私達のことを認める。本当の家族。
この言葉でこの二人がどういう関係かを少し察する。

ここで、話は高校時代の二人が海辺を歩いている場面に移る。
オーディションを受けに東京に行くというあき。なつみにも付いてきて欲しいと笑う。
なつみも笑いながら、ずっと一緒にいたいね、と東京行きを決める。

ここまでなら、「仲良いんだな…」の範疇だ。
しかし、先程の場面が頭をよぎる。
ここで会場が明るくなり、ドラムの音で現実に戻される。
ヤマシタのベース。ハヤシの歌声。ドラムをバシバシ叩きながら叫び倒すクミコの歌声。
おそろしく格好いい。
実は男女3ピースバンドということしか知らなかったので、この構成とは思っていなかった。

既に釘付けになっているところで、映像の中に居た二人が舞台に出てきて、舞い踊る。
時に手を繋ぎながら。時に後ろから抱きしめられながら。

感情の機微を描いた『アイマイナー』の歌詞と、このダンスを見れば、察しの悪い人でもこの二人の関係性が理解できる。
姉妹のようにも見えるが…この二人は、

二人しかいない世界と、さらなる不穏

会場が暗転し、また二人の話が始まる。
現在のなつみは在宅で何か仕事をしており、あきは相変わらずオーディションを受け続けているらしい。厳しいレッスンをしている中に、少し苦しそうな顔が見える。
仕事の合間に何か調べ物をしているなつみ、そこに帰ってくるあき。
オーディションは順調らしく、楽しそうに未来の展望を話す。
「なつみは? 結婚できたらどうする?」
という問いに、なつみは「子供が欲しい」と言う。
あきにはどうやら無かった発想のようで、少しムスッとした表情になる。
あきとなつみが女性同士である以上、残念だが今のままでは子供はできない。
そう返されるのも分かっていたのか、なつみはあきにパソコンの画面を見せる。
しかしあきは「そんなの調べないでよ」と自分の部屋に帰ってしまう。
画面には、幸せそうな男女の写真。

場面は移り、また厳しいレッスンをするあきの姿。
なつみは家であきの帰りを待っている様子。
つまらなそうにしているなつみの元に、あきが帰ってきて、今回のオーディションには受かりそうだと嬉しそうに言う。
「今回のオーディションに受からなかったらどうにかなっちゃいそう」
「…オーディションなんてまたあるよ」
「オーディション"なんて"、って。なつみなら分かってくれると思ったのに」
どうも噛み合わない二人。ごめん、と言いながら伏し目がちのなつみ。
「それにしても…遅かったね」
遅くて悪いの、とばかりのあき。なつみは不服そうに、
「……私は、あきともっと一緒にいたいから」
あきの頬に手をやり、引き寄せ、そのまま

暗転、バリバリのドラム、舞台上に現れるなつみとあき。
『コールドプラネット』に合わせて、『Yes!』『No?』と○✕を出しながら交互に跳ぶ。

…おそらく笑いどころなんだと思うが、話がドシリアスなせいで目を白黒させるしかなかった。『Yes!』『No?』じゃないのよ…

幸せな二人と、その、

あきのオーディションは本当に順調なようで、二人の間に笑顔が増えていく。
今まで家にいたなつみは、よく出歩くようになった。
仕事なのか何なのか、見知らぬ男性や女性と会っている。
あきはそんなことは露知らず、時間は進んでいく。
待ち合わせて、手を繋いで歩く。そんな何気ない時間が、本当に愛おしい。

しかし、話はここで冒頭のシーンに戻る。

二人の関係を認めない親。今は認められることのない、二人が、本当の家族になること。

嘆くあき、なだめるなつみ。

「…いつか私達が本当の家族になれるといいね」

そんな言葉も、妙に虚しく響く。
日々は過ぎていき、なつみは出歩き、あきは最終オーディションへ。

しかし。

早回しのように流れていく会場の様子。
泣き叫ぶあき。

真っ黒の空。何処かの屋上。端に立ち、風を切る茶髪。

「…ごめんね…なつみ…」

踏み出し、空を切る足。

突如掛かってきた電話を取り、「え?」と言うなつみ。大きく見開いた目。

暗転、

『もういいよ 少し休もう 飛び降りた空 冷たくなっていく』
『もういいよ 少し眠ろう 生まれ変わったら またここで会おう』

『子供がほしいな 真っすぐにあなたは言った』
『苦労はかけたくないから 今はまだ…ってはぐらかした はぐらかし続けた』

『また別の世界で』

恐ろしいぐらいのドラムボーカル。
舞台上のなつみを抱きしめて、去っていくあき。
繋いだ手が離れていく。

終焉のその先

写真になったあきに、笑いかけるなつみ。
いつかのように何処かに向かう。
向かった先にはいつか会っていた女性。隣には小さい女の子。
女性と少し話し、小さい女の子を連れて行くなつみ。
そう…あの時調べていたのは、養子縁組。

「…お名前は?」
「あき」
「あき? …そう」

娘となったあきの手を取り、歩いていくなつみ。

「…どこ行こうか?」
「海がみたい」
「海? …ふふ、分かった」

小さくなっていく二人の背中。

-二人のフーガ- fin.


というわけで、ストーリー部分はこれで終わり。
ざっくりまとめると、世界から認めてもらえない二人が、時に逃避や脱線しながらも、本当の家族になるまで、ということなのだと思う。

どのカテゴリーの話でも、死を救済とする話はある。現世ではどうしようもなくなった人が、来世では幸せを掴む。こんな日々が続くなら…と死に向かう。死に救いを求める。
しかし今回の話の場合、まず「なぜ死なせた…?」が勝ってしまった。
恋人にしろ友人にしろ家族にしろ、安易に死別させてカタルシスを得させようとする話が元々あまり好きではない。
はなから死が前提のサスペンスやミステリー、難病物やバッドエンド等、必然性があるものならともかく、急に殺された感が否めないからである。

その後の展開を見れば、死なせた意味は分かる。あきは生まれ変わって同じ名前の別の女の子になり、なつみの娘=本当の家族となった、ということなのだろう。
この結末自体はハッピーエンドの一つで、「本当の家族になる」という目的は達成されている。それ自体には何の文句も付けようもない。

しかし個人的な感情としては、あきには生きて欲しかった。
二人のフーガ、というタイトルなのだから、二人で、この世界で、本当の家族になって欲しかった。
生まれ変わった先じゃなくて、生きた上で、この世界から逃避して欲しかった。
綺麗事と言われるかもしれないが、フーガ、と銘打った以上、認められない世界から逃げ回った上で、一緒に暮らして欲しかった。
なつみと一緒にクラゲ見に行くとかでも良いから。

もちろん、シナリオアートの曲から考えると死んだ方が話が作りやすいのかもしれない。
あとから調べてみると相手が死んでいる曲も多い。
しかしそれにしたって、と言いたくなる脚本で、未だに少しモヤモヤしている。感情を動かされた時点で もう術中にはまっているのかもしれないが。

アンコールのトークによるとあきの死を提案したのはハヤシコウスケだそうで、脚本をつとめた新井健太はハヤシをサイコだと称していた。
なんなら最後女の子の名前をあきにしようと提案したのはクミコだそうで、これまたサイコだと称されていた。

色々と言いたいことはあるものの、その後の『スワンテイル』とアンコールの『ワンダーボックスⅡ』が、息を呑むくらい綺麗だったこと。
コンセプトに合わせたダンスと音が合いすぎていたこと、結局足バッキバキになったこと、ヤマシタのベースが凄いこと、クミコのドラムボーカルに度肝を抜かれたことは確かで、
そして、あきを死なせることを提案したハヤシはサイコ。クミコもサイコ。脚本もサイコ。たぶんヤマシタもサイコ。
今のところは、そういうことで(?)